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「彼女の話した通り、獣人は時々里に下りて、人間の女をかどわかす。
それは、もちろん獣人の数が少ないからだ。
それに、獣人の女は、人間よりも子供を産める期間が短いらしい。
だから、人間の女をさらって来て、子供を産ませる……
それは確かに酷いことだと思ってる。
それだけじゃない。
子供を産んだ女は、しばらくすると口封じのために殺される…
生まれた子供が、人間だった場合も同じだ。
獣人の中には人間を憎んでる奴が多いけど、そうじゃない者だってそれなりにいるんだ。
心の底ではそれが悪いことだってわかってるし、本当はそんなことはしたくないと思っていても、村のため、獣人のためとなると……逆らうことは出来ない……」
悲痛な面持ちで話すジュリアスを、ジャネットは鼻で笑った。
「それで、おまえは、人間をさらって来ることを申し訳なく思ってる出来た獣人だとでも言いたいのか?」
「ジャネット…今はジュリアスの話を黙って聞こう。」
ダルシャの言葉に、ジャネットは不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。
「……俺の父は、少数派の考え方をする方だった。
人間のことが好きだというわけじゃあないが、女をかどわかしたりすることには、とても抵抗があったみたいだ。
だけど、村のため…獣人のためにはやらないわけにはいかない。
ある時、父と数人の男達は女をかどわかしに出かけた。
行き先は皆バラバラだ。
万一みつかった時のことを考えて、同じ場所には行かないことになってるんだ。
出かけた男達は、皆、女を連れ帰った。
そのうちの一人は、その晩のうちに舌を噛み切って死んだらしいが、他の女達はどうにか自分の身に起きた現実を受け入れた……」
「馬鹿なことを言うな!!
女達は、現実を受け入れたんじゃない!
いずれは殺されることがわかっていて、それを受け入れられるはずがないだろう!
女達は…私の母さん達は、逃げだすことも、自ら死ぬことも出来ず…獣達のいいなりになるしかなかっただけだ!」
ジャネットは、涙を流しながら、ジュリアスに熱く抗議した。
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