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「ダルシャ様、いつもどうもありがとうございました。」
「こちらこそ、いろいろと世話になったな。
あ、くれぐれも今回のことは家の者にはまだ……」
「はい、わかっております。」
店主はそう言って、にっこりと微笑む。
「では、また……」
たくさんの商品を注文したダルシャを、工房の店主はいつまでも見送っていた。
「やったね!
ほら、無事にイグラシアに着いたじゃない!」
「あ……あぁ……」
何事もなくイグラシアに着いたというのに、ジュリアスはまだ緊張が解けていないようだった。
「とりあえず、今夜はもう遅い。
何かうまいものでも食べて、この町の宿に泊まろう。」
「ダルシャ…食事は部屋で食べることは出来ないか?」
「そうだな。では、宿の者に頼んでみよう。」
ジュリアスの気持ちを察したダルシャは、力強く頷いた。
*
「あぁ…なんだか懐かしい……
前にここに来た時もこの宿だったよね。」
「そうだっけ?」
「そうだよ。
ほら…ボクがこの近くで倒れて……」
「倒れた??……なんでだ?」
「……フレイザーは何も覚えてないんだな。」
部屋で食事を採りながら、七人は他愛ない会話を交わす。
ジャネットだけは相変わらず何もしゃべらず黙々と食べていたが、特にそのことを気に留める者はいなかった。
「そういえば、あの時は、まだジャネットはいなかったんだよね。
ボク達とラスターがセリナを探してて……」
「あ……」
「セリナ…?どうかした?」
「そうだわ!
ねぇ!ジュリアスを、エルフの村へ連れて行ってあげたらどうかしら?」
「エ…エルフだって…!?
き、君達は俺を殺すつもりなのか!?」
怯えたような声を上げ、突然立ち上がったジュリアスに、ほんのしばしの沈黙が流れ、それは一斉に笑い声に変わった。
「な、なにがおかしいんだ!?」
「ジュリアス…まずは座りたまえ。」
ダルシャに腕を引かれ、ジュリアスは渋々腰かけた。
「良いか、ジュリアス…エルフが人や獣人を食うと言うのは嘘だ。」
「そ、そんなこと、なぜわかるんだ!?」
「そりゃあわかるわよ。私はエルフと一緒に暮らしてたんですもの。」
「えーっ!?」
「えーっ!?」
奇しくも、ジュリアスとジャネットの驚きの声が重なり、二人は顔を見合わせた。
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