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「それは本当に大変なことでございましたね。」

工房の主人は、上目使いにジュリアスをみつめ、弱々しい声をかけた。



「でも、こう言っちゃなんですが、奥様はご無事で良うございました。
たまたま外出されていたかなにかですか?」

「え…?そ、そうなんです。
私はたまたま買い物に出かけていて……戻った時はどれほど驚いたことか…!」

セリナは大げさにそう話すと、ハンカチで口元を押さえた。



「そりゃあそうでしょうとも。
お可哀想に……」



工房の主人は、ジュリアスのことを心配こそすれ疑うようなことは少しもなかった。
貨物船に乗ってみたいというダルシャの頼みもいともたやすく了承した。








「ジュリアス、私達の言った通りだろう?」

「う、うん…でも、俺……心臓が口から飛び出しそうだった。
今もまだ足が震えてるくらいだ。」

「何を言ってるんだ。
君にはこんな良い奥さんがいるじゃないか。」

「お、おい!ダルシャ!」

焦るジュリアスの様子に、セリナはくすくすと笑う。



「セリナ、女優さんになれそうだね!」




和気あいあいと話す六人から離れ、ジャネットは一人、つまらなさそうに窓から空を見上げていた。
ジュリアスは、そんなジャネットに目を遣った。



「……彼女は……」

「ジュリアス…気にしないでくれ。
ジャネットには事情があってな……」

「事情……?一体、どんな……」

「フレイザー!」

皆の話し声が聞こえていたのか、ジャネットの厳しい声が飛んだ。
フレイザーは苦笑しながら、ジュリアスに向かって片目をつぶり、ジャネットの方へ歩き出した。



「さぁ、みんな…そろそろ休もう。
明日は早いからな。」

「明日の夜には、懐かしのイグラシアか……」

「あ、そうか…
ボク達がラスター達に会ったのもイグラシアだよね?」

「そういうこと。
結局、エリオット達の記憶は戻らなかったな。」

「だ、大丈夫だよ。
きっとこの先に……うん、きっと……」

小さく笑うエリオットに、ラスターはどこか戸惑ったような微笑みを返した。



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