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「このお兄さんだって、こんな風におさまってはいるが、実は……」
「ラスター…!」
「ありがとう、エリオット。
だが、隠すことはない。
ジュリアス…実は私は魔女に呪いをかけられていてな。」
「の、呪いを……!?」
ダルシャはわずかに微笑みながら、ゆっくりと頷く。
「そうなんだ。
なに、普段の生活では特に困ることはない。
だが、ナジュカを見ると……」
「獣人になっちまうんだ。
しかも、他ではほとんど見られることのない可愛らしい獣人にな。」
ダルシャの話の横から、薄ら笑いを浮かべたラスターが口を挟む。
「なんだって…獣人に……!?
なるほど……だから、願い石を探してるのか。」
「そういうことだ。」
そう言うと、ダルシャは木の器でワインを流し込んだ。
「俺とエリオットは記憶を失ってるんだ。」
「記憶を…?」
「それだけじゃない。
こいつらは文字も読めないし、さっきみたいに魚や魔物の名前もすっかり忘れてるんだ。」
「それは不自由なことだな。
なんで、そんなことになったのかも覚えてないのか?」
「う、うん…まぁね。」
エリオットの顔をじっとみつめるジュリアスに、エリオットは俯いてその視線を逸らした。
(嘘吐いてごめんね…)
心の中でジュリアスに詫びるエリオットに気付いたのは、フレイザーだけだった。
「他にも二人いるんだ。
その子達もやっぱりいろんな事情があって……」
「そうか…それなのに、俺の持ってたのは双子石で……がっかりしただろう?
すまなかったな。」
「そんなことないよ!
双子石だって重要な石だよ。」
「忘れたのか、エリオット。
双子石っていうのは、願い石を使った者がその願いを解除する時にしか効果を発揮しないんだぜ。」
「え…あ、あぁ、そうだったね。」」
エリオットは本当のことが言えず、その複雑な気持ちを無理な笑顔で誤魔化した。
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