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「ジュリアス……それで、あんた…願い石を盗んで、何をしようと思ったんだ?」
「え……それは……」
「言いにくいことか?」
一瞬、戸惑った表情を見せたジュリアスだったが、それでも彼は首を振る。
「……俺は……俺は人間になろうと思ったんだ。」
「人間に……?」
「人間になったら、もっと自由に生きられるって思ったんだ。
俺って単純だよな。
エリオット、これは何ていう魚なんだ?身がぷりぷりしててすごくうまいな!」
ジュリアスは、意外な程簡単に答え、さっと話題を変えた。
「それは…え、えっと、なんだっけ??」
「ドルマーナだ。」
「俺みたいな貧乏人にはなかなか買えない高級魚だぜ。
俺だって、みんなと一緒に旅をするようになって初めて食べたんだ。」
「へぇ…道理でうまいはずだ。
そういえば、みんなはどういう知り合いなんだ?」
「皆、最初はほぼ知らない者同士だ。」
「知らない者同士?なんでそんな者達が旅をすることになったんだ……?」
四人は、ジュリアスの問いに、一瞬、顔を見合わせた。
「そうだな……皆、それぞれに事情を抱えていてな。
そういう者達を願い石が引き寄せた…とでも言おうか……」
「そういえば、前にもそんなことを言ってたな。
でも、あんたはいかにも金持ちそうに見えるし、エリオットなんて魔法使いなんだから、たいていのことはどうにでもなるだろ?
ラスターやフレイザーだって、特になにか問題を抱えてるようには見えないが……」
「俺は、スラムの出身だ。
スラムってところは本当に酷い所でな。
貧乏で惨めで、いつでもだれかが喧嘩をしてて…何をやっても決まって誰かに邪魔をされ、そんな暮らしから抜け出すことはなかなか出来なかった。
……あんたと同じだ。
スラムから離れなきゃ、俺はあんなゴミ屑みたいな生活を今も続けていたんだろうな。
金持ちだけじゃない…普通の人々を、スラムの奴らを…親や自分自身までを憎み続けて、心の中を憎しみでいっぱいにして…そしてどんどん腐って行ってたんじゃないかって思うよ。」
「あんたもそんな想いを……とてもそんな風には見えないな。」
「会った頃はどこのちんぴらかと思うくらい荒くれていたが、最近は君もマシになったのだな。」
「うるせぇ!」
ダルシャの皮肉に、ラスターの怒声が飛んだ。
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