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「ジュリアス……君は何を恐れている?
なぜ、同族の所へ行くのを、そんなに嫌がるんだ?」

「そ、それは……」

ジュリアスは顔を伏せたまま口籠り、ダルシャの問いかけに答えることはなかった。



「わかった。
言いたくないのなら言わなくて良い。
君が獣人の村に行きたくないのならそれでも良い。
ただ、今は早急にここを離れよう。
その後のことは私が責任を持ってなんとかする。」

「なんとか…って……」

「一生、匿う。」

その短くも重みのある言葉に、ジュリアスは思わず顔を上げ、ダルシャの瞳をじっとみつめた。



「……あんたが初めてだった。」

「何が初めてなんだ?」

「あんたは俺に名前を訊ねてくれた初めての人間だ。
人間にとっちゃ、獣人に名前なんて必要ない。
どれもただの『獣人』でしかない。
だけど、あんたは違った…
それに他のみんなも、俺のことを自然とジュリアスって呼んでくれた……
俺……本当はそのことがすごく嬉しかったんだ。
名前を呼ばれたことなんて、ものすごく久しぶりのことだ。
おかしな話だけど、俺は、あんた達に名前を呼んでもらうことで本当にこの世界に生きてるんだって…そんな風に実感出来たんだ。」

話しているうちに、ジュリアスは感情が高ぶったのか、彼の大きな瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。



「だったら、もっと生きねばならんな。
時に、君のご両親は?」

ジュリアスは、俯き小さく首を振った。



「そうか、それではご両親のためにも長生きせねばならんな。」

「なぜだ?」

「我が子の無事や幸せを願わない親などいない。
それは、たとえ天に召されてからでも変わらないさ。」

「でも、生きていたら幸せとは限らないんじゃないか!」

ジュリアスの悲痛な声が部屋に響く。



「……君は、今まであまり幸せではなかったのだな?」

仕草でも言葉でも何も答えないジュリアスに、ダルシャはさらに言葉を続けた。



「ならば、これから幸せにならんとな。
悔しいとは思わないか?
幸せだと感じることのないまま、この世を去るなんて……
君には幸せになる権利が…いや、幸せになる義務があるんだ。
ご両親のためにもな……」

顔を伏せたまま何も言わず、ただ肩を震わせるジュリアスの背中を、ラスターが優しくさすり続けた。



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