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「それじゃあ、皆さん、お元気で!」
「あんた達もな!また必ず遊びに来いよ!」
次の日の朝、みんなは集落を離れた。
まずは港の近くの宿屋を目指し、次の日に戻ることに決まった。
「なんだか信じられないな。」
「信じられないって、何がだ?」
「……まさか生きて帰れるとは思ってなかったから。
僕は、この島でレティシアに新しい命を授けて、天に召されるものだと思ってた。
……なのに、僕は生き残り、彼女がいなくなるなんてな……」
ダルシャは、何も言わず、オズワルドの背中を優しく叩いた。
*
「もう少し早かったら、今日中に戻れたのにな。」
「何もそう急ぐこともないだろう。
今夜は、ここでの最後の夜をのんびりと楽しもう。」
宿に着いた七人は思い思いに時を過ごした。
「オズワルド、大陸に着いたらまた町に戻るのか?」
「そうだな。
……レティシアのことはきっぱりと忘れて、また元の暮らしに戻るよ。
あ、そうだ……」
オズワルドは、懐からレティシアの手紙を取り出した。
しばし、それをみつめていたオズワルドが、手紙に手をかけた。
「オズワルドさん、何をするの!?」
エリオットの緊迫した声が部屋に響いた。
「何って……破るんだよ。」
「そんな……だって、オズワルドさんはレティシアさんのことを……」
「もうやめてくれよ、恥ずかしい。」
「恥ずかしくなんかないわ!
それに、レティシアさんだって本当はきっと……」
「もう良いんだ……セリナだって見ただろう?
この素っ気ない手紙を!」
オズワルドがテーブルに叩きつけた手紙を、セリナはそっと手元に引き寄せて開いた。
「……何かおかしいのよね。
エリオット…あなた、何か感じない?」
「ボクは字がよく読めないから…
ただ、この手紙、改行が多いよね。」
「改行?
そうね、もっと続けても良さ……あっ!」
セリナは見開かれた丸い目で手紙をみつめた。
その瞳は次第に潤んでいく。
「オズワルドさん!みつけたわ!」
「みつけた?
何を?」
「この手紙を縦に読んでみて。
ここからよ。」
そう言いながら、セリナは先頭の文字を指さし、その指を下に下ろしていく。
「え、い、え、ん、に」
オズワルドの声に、皆が耳を傾ける。
「あ、な、た、を…………あ、い、す……」
オズワルドの瞳も、いつの間にか熱い涙で濡れていた。
「レティシア……!」
絞り出すようなオズワルドの声が、悲しく響いた。
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