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「せっかくのご好意だ。飲まないか?」
憔悴しきった様子のオズワルドは、小さく頷き、ダルシャの差し出す酒を受け取った。
老婆やスタンの配慮により、その晩、七人は村の集会所に泊めてもらうことになった。
そればかりか、老婆達は、夕飯や酒までを振る舞った。
「辛いだろうが……気落ちせんようにな。」
老婆はそう言ってオズワルドの両手を握りしめた。
「……どうもありがとうございます。
あなたには本当にお世話になりました。」
「何を言う……わしがもう少し早くに気づいておれば……」
老婆は、不意に俯き、小さく肩を震わせる。
「いえ……あなたのせいではありません。
彼女は自らの意思で死を選んだのですから。
誰にも気付かれず、海の藻屑となるよりはどれほど良かったか……
彼女はあなたやここの皆さんにきっと感謝してますよ。」
今度はオズワルドが、老婆の小さな背中を優しく撫でる。
オズワルドには、この老婆の苦しみが我が事のようによくわかっていた。
「おばあさんも少し飲みませんか?」
「ありがとうよ。」
老婆は、オズワルドからグラスを受け取り、それをゆっくりと口にした。
「あの人はなぜあんなことをしたのかわかるか?」
オズワルドは小さく頷いた。
「彼女はある奴等にずっと追われていました。
そのことで、僕や知り合いが怪我をして…僕はたいしたことはなかったんですが、知人の怪我がたいそう深いものだったんです。
彼女はそのことをとても気に病み、その後、僕達の前から姿を消しました。
きっと、僕達にこれ以上迷惑をかけたくないと考えたのでしょう。」
「そんなことが……気の毒に……
だが、それならそれで、なにも死ぬことはなかったじゃろうに……」
「その通りです。
僕達は、彼女を追ってた奴等を始末した……
もう逃げる必要もなかったのに……」
オズワルドは、悔しそうに拳を握りしめ、唇を噛み締めた。
「酷い怪我って……まさか、フェルナンドのことじゃ……」
静かに話を聞いていたスタンが急に横から口をはさんだ。
「そうです!スタンさんはフェルナンドさんをご存知なんですか!?」
「あぁ、もちろんだ。
俺はあの頃用があって大陸に行ってたから、話を聞いたのはずいぶん後だが……
そうか…そうだったのか……」
その晩は、皆でレティシアのことを偲びながら、しめやかな夜が過ぎていった。
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