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「そんなこと……気にするなよ。」
「でも、あの時、あなたは怪我をして……」
「あんなもん、怪我のうちに入らないさ。
俺は子供の頃から、親父には殴られ慣れてる。」
「……ラスター……」
セリナはラスターの目をじっとみつめ、ラスターはその視線をそっとはずした。
「……つまらない話をして悪かったな。」
窓越しに暗い空を見上げて、ラスターは独り言のように呟いた。
「そんなことないわ。
なんだか懐かしかった。」
「セリナ……あの時、俺のことを……その……信頼してるって……」
「覚えてるわ。
私…確かにそう言った……」
「あんなこと言われたの……初めてだった。
しかも、俺はただ暴れたかっただけなのに……その上、あんたは自分の身の上も打ち明けてくれて……」
セリナはゆっくりとラスターの傍に移動し、同じように暗い空を見上げて呟いた。
「抱えてるのが辛くて……
誰かに聞いてほしかったの。
少しでも手放して楽になりたかった……」
「そっか……」
二人は、黙ったまま、取り立てて何ということのない空を見上げていた。
やがて長い静寂が気まずさに変わり始めた頃、ラスターがようやく口を開いた。
「今は信頼出来る奴がずいぶん増えたな。
俺の出る幕はないかもしれないけど……俺、命を賭けてあんたのこと護るから……安心してて良いぜ。」
「ラスター……」
「今は五人もいるんだからな!」
ラスターは、セリナの背中をぽんと叩くと、無邪気な笑顔で微笑んだ。
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