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「セリナ……私…これからもっと幸せになる……
フレイザーとずっと二人で生きていくよ。」
「そうね…私も応援するわ!
一生、フレイザーから離れちゃだめよ!」
「あぁ……絶対に離れないよ。」
「ありがとう…ジャネット……」
「セリナ……?」
セリナの鼻にかかった声に驚き、ジャックは彼女から身を引いた。
「何で、セリナが泣いてるんだよ!?」
「だって……嬉しいんだもの。
あなたの幸せそうな顔見てたら、私、とても嬉しくて……」
「馬鹿だな…そんなことで……
泣くようなことじゃないのに、セリナが泣いたらこっちまで涙が……」
「どうしてよ!
あなたまで泣くことないじゃない!」
二人は顔を向かい合わせながら、ぽろぽろと溢れ出る涙を流した。
それは、どちらも悲しみの涙ではなく、切なさと感動の入り混じった幸せな涙だった。
「ジャネット…もう泣くのはやめなさい。
鼻がとなかいみたいに真っ赤になってるわよ。」
「セリナだって真っ赤だぞ…!」
「う、嘘っ!」
「嘘じゃない。ほら。」
そう言いながら、ジャックは小さな手鏡をセリナの前に差し出した。
「まぁ……」
その様子にジャックはくすっと笑い、それを見たセリナもまた同じように噴き出した。
「こんな酷い顔じゃ帰れないわね。
しばらくその辺をぶらぶらしてから帰りましょう。」
「こんな顔でぶらぶらする方が恥ずかしいんじゃないか?」
「知らない人なら良いのよ。」
お互いの顔を見ながらひとしきり笑った二人は、ベンチを離れ、またゆっくりと町の方へ歩き出す。
「あ……」
「どうしたの?」
「あの…フレイザーのことなんだけど……」
「彼がどうかしたの?」
話しにくそうにするジャックに、セリナはさらに質問を重ねた。
「……記憶をなくすと、やっぱりいろんなことを忘れてしまうみたいだ。
昨夜もその……まるで、初めてみたいだった……」
「あら……そ、そうなの……?
……あ、ジャネット……なにかお菓子でも買って帰らない?
あそこに、お店があるわ。」
気まずさを隠すかのように、セリナは店に向かって駆け出した。
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