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「セリナ……お茶もういっぱいどうだ?」
セリナは瞳を伏せたまま、ゆっくりと頭を振った。
「そうか……
じゃ、もう休むか?
セリナが眠るまで、俺、ここにいるから……」
「こんな早くに眠れないわ。
ジャック……私のことなら大丈夫。
あなたは部屋に戻って。
ひさしぶりにフレイザーと一緒なんでしょ?
話すこともあるだろうし……」
今度は、ジャックがセリナの言葉に首を振る。
「……エリオットが戻るまではここにいるよ。」
セリナは力なく顔を上げ、ジャックをじっとみつめた。
「セリナ……じいさんの話だけど……」
「ジャック、何も言わないで。
そりゃあ、確かにショックな話だったけど……
でも、理由がわかって良かった。
あ……私、悲しんでなんかいないわよ。
好きな人とは結ばれないってことは知ってたんだし……
理由を知らずに、誰かを好きになってたら、きっともっと辛かったと思うの。
わかってたら、最初から好きにならないですむんですもの……」
「セリナ……」
ジャックは、言葉の代わりにセリナの両手をしっかりと握り締める。
「ジャック……以前、私、あなたに言ったわよね。
私の夢は、あなたがフレイザーと結婚して幸せになってくれることだって。
私ね……護り人さんに話を聞いてから、ますますその想いが強くなったの。
急には無理なのかもしれないけど……ジャック……どうかお願い。
私の夢を叶えてね。
好きな人を力いっぱい愛して、そして同じように愛されて……私の分も幸せになって……
私には……誰かを愛することは許されないんだから…」
「セリナ……!」
小さく震えるセリナの肩を優しく抱きながら、ジャックは複雑な想いに胸を痛めた。
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