それに続いて、ダルシャの声をかき消すような甲高い悲鳴が上がった。



「ガミューよ!」

セリナの指差す先には、一目で危険だと思われる魔物が立ちはだかり、人間達を少しも恐れることなく突き進んで来る…



「な、なんて、鋭い牙だ…」

「それにあの長い爪…まるで剣の刃先みたいだ…」

エリオットとフレイザーは、初めて目にした凶悪な魔物の姿に、腰を抜かさんばかりだった。
恐怖感が大き過ぎるためか、二人はその場に立ち尽くし、ガミューと呼ばれる魔物をただじっと凝視するだけだった。



「おいっ!
何、ぼっとしてるんだ!
早くこっちに…!」

ラスターの鋭い指示が飛び、二人はようやく我に戻った。



「ば、ばかっ!
あんな魔物に、そんな短剣で立ち向かえるはずがないだろ!」

「そうは言っても、今はこれしかない。
俺がせいぜい引きとめるから、あんたは女達を連れて出来るだけ遠くに逃げるんだ!
奴は、足も速い。
ただ、木登りは苦手だから、高い木をみつけたらそこに登るんだ。
わかったな!」

「おまえを見殺しにして逃げるなんて…そんなこと出来るか!」

「馬鹿野郎!
そんなことを言ってる場合か!
あんたのために言ってるんじゃない。
ここにいたら全員やられちまうんだ。
早く行けったら!」

フレイザーとラスターが言い争っている間にも、ガミューは四人の間近まで迫っていた。
近付くにつれ、ガミューの身体のことがさらによくわかった。
光沢のある皮膚は、とても厚く、まるでなめし皮のようだった。
身長は、フレイザーよりもずっと高い。
人間でも大男と言われる部類の大きさだ。
狡猾そうな細い瞳と突き出た口許は、鳥のようにも爬虫類のようにも見える。



「……わかった、ラスター。
セリナ達を安全な場所に連れて行ったら、必ず戻るから…
それまでなんとかもたせてくれよ!」

あの魔物を見た以上、フレイザーにはそれが無理な話だとわかっていたが、もちろんそんなことを口にすることは出来なかった。



「……あんたじゃ、あんまり頼りにならないけど…
ありがとう…あんたと会えて良かったよ。
セリナとエリオットを頼むぜ!」

フレイザーは頷き、エリオットとセリナの手を取った。



「そんな…ラスターを置いていくなんて…」

エリオットはうっすらと涙の浮かんだ瞳でフレイザーを見上げた。


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