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「そんなことになってたのか。
すごいもんだな……」
フレイザーは、感心したように大きく頷く。
エリオットは、サンドラの家にかけられた魔法についてフレイザーに話して聞かせた。
井戸や台所、そして家には精霊が住まわせてあり、サンドラが自分が主人だと宣言することで、精霊達はサンドラの言うことを聞くようになったとのことだった。
井戸からは澄みきった水がわき、かまどには薪を入れなくてもいつも火が燃えるようになった。
「良かったなぁ…
これからは、もう泉に水を汲みに行くこともないし、薪を集める手間もいらないんだ。
もしかしたら、これはおばあさんが暮らしやすいようにかけられた魔法かもしれないな。」
「……そうだろうかね。
そうだったら嬉しいけどね……」
「きっとそうだよ。
あ、そうだ!ここにもう一台オーブンを買ったらどうだ?
そしたら、もっとたくさんのケーキが焼けるようになるじゃないか。」
「フレイザー、忘れたの?
エレのケーキは火加減が難しいんだよ。」
「あぁ…そうだったな…
結局、人手が足りないんだな…
でも、そのうち、ケーキがもっと売れるようになったら人を雇えるようになるかもしれないぞ。」
サンドラは、フレイザーの言葉に苦笑いを浮かべた。
「おばあさん、冗談じゃないよ。
本当にそうなるかもしれないよ。
この前、大人向けのケーキの話もしてたじゃない。
これから、イリヤと一緒に新しいケーキも作って、どんどん売ってみたら良いよ。
おばあさんの考えたケーキならきっと売れるよ。
だって、とってもおいしいんだもん!」
「……本当かい?
本当にそう思うかい?」
「もちろんだよ!」
サンドラは、エリオットをみつめ嬉しそうに微笑み、そしてゆっくりと頷いた。
「これは私もうかうかしてられないね。
もっと元気になって、いろんなケーキを考えなきゃね。」
「おばあさん……
そうだよ!ボク、旅が終わったらまた遊びに来るからいつまでも元気で長生きしてよ!」
「エリオット……ありがとうよ……」
手を握り合う二人の姿をみつめながら、フレイザーはふとこの旅の終わりのことを考えた。
フレイザーの視線がゆっくりとジャックの方へ移り、そして、すぐに俯いた。
(……ずっとは一緒にいられないんだな……)
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