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「……このあたりだ。」

板切れは、沼の中央あたりで停まった。



「このあたりって何が?」

「いいから…何か浮かんで来たら、それを持ち上げて!」

「わ、わかった。」



エリオットは、目を閉じ一心に呪文を唱え始めた。
これから,何が起きるのかわからないジャックは、緊張した面持ちであたりをきょろきょろと見渡す。



(一体,何が起きるっていうんだ?
どこにもそれらしいものは……)



「あっ!」



沼の中央からぼこぼこと空気の泡が浮き上がってるのを目にしたジャックは、息を飲んでその場所を見守った。



「あ…あ……エリオット……あそこに……」

次第に泡は大きくなり、やがて大きな水音と同時に箱が浮かび上がった。



「で、出た!!」

ジャックは手を伸ばし、浮かび上がって来たばかりの箱を取る。



「けっこう重いな、これ……」

「鉛なんだよ。
ちょっと、待っててね。
もう一つ、浮かびあげなきゃいけないものがあるんだ。
それ、しっかり持っててね。」

そう言うとエリオットは、またさっきと同じように呪文を唱え始める。
ジャックは、箱を抱き締めながらあたりに目を凝らすが今度は何も浮かんで来ない。
そればかりか、エリオットの額からは玉のような汗が噴き出し、眉間には深い皺が刻まれた。



「エリオット……大丈夫なのか?」

エリオットはジャックの声にも反応せず、一心不乱に呪文を唱え続ける。
汗は滝のように流れ出し、エリオットの身体は小刻みに震え出す。



「エリオット……無理し過ぎん…じゃ……」

そう声をかけながら、ジャックは沼の異変に気がついた。
まるで沼全体が動いているような不気味な波紋……



「あぁーーーっっ!」



大きな水音と共に、浮かび上がったのは橋だった。
飛沫でエリオット達もずぶ濡れになり、大きな波が沼中を揺るがす。
それはサンドラの家と町のはずれを結ぶ石作りの長くて立派な橋。



「こ、こんなものが……
道理で重いはずだよ……」

ぐったりとした様子のエリオットが、息も絶え絶えに呟いた。



「エリオット…大丈夫なのか?」

「なんとか、ね…とにかく、戻ろう……」


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