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「なんだい、この文字は…こんな文字、わた……」

『愛するサンドラ……』

「わっ!な、なんだい……!」

サンドラの手の便箋から、文字が飛び出しそれが声となって部屋に響く。



『今、あなたはいくつでどんな暮らしをしているのでしょう。
あなたが、幸せだと良いのですが……』



「これは、おばあさんのお母さんの声なんだね!
おばあさんだけに受け取られるように、お母さんは声を残したんだ!」

サンドラは小さく頷いた。



『驚かせてごめんなさいね。
もしも、願い石を悪い奴に取られたら大変ですから、こんな凝ったことをしてしまいました。
それと…あなたに言っておきたいことがあったから……』



サンドラの母リューラの話はゆっくりとした口調で続いた。
魔法使いだった彼女は,サンドラの父親・ローランと恋に落ちた。
ローランは格式のある貴族の跡取り息子で、家族に反対されることはわかっていたが、それでも二人の愛情はとても深く、ローランは家を出て二人は一緒に住むようになり、やがて、二人の間にはサンドラが生まれた。
そんなある日、ローランの両親がリューラの元を訪ね、涙ながらに息子と別れてほしいと懇願した。
ローランが一族にとってどれほど大きな存在であるか、そして、自分達がどれほどローランのことを愛しているかをとつとつと話した。
サンドラにも出来る限りの事をして立派に育てることを約束し、リューラはローランとサンドラのことを想い、断腸の想いで両親の申し出に従った。
リューラはローランには何も言わず姿を消した。
しばらくすればローランも自分のことは忘れ、どこかの良家の娘と結婚して幸せになるだろうとリューラは考えていたが、そうではなかった。
ローランは家には戻らず、幼いサンドラを連れて、リューラを探し続けた。
それを知ったリューラは、ポーリシアに移った。
まさか、ローランもそこまでは追いかけて来ないだろうと考えたからだった。


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