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「エリオット……あんた、知ってたのかい?」
「えっ!?」
エリオットが戻るなり、サンドラが声をかけた。
「だから、願い石のことだよ。」
「え……う…ん、そうだね。
知ってた…かな?」
「そうかい……」
サンドラは何かを考えるように、そのまま黙りこんだ。
「あ、おばあさん…お酒……」
「エリオット……願い石を持っておいで。」
「……え?どうして?」
「……いいから、早く持っておいで!」
サンドラはエリオットの態度から何かを感じ取ったのか、それともただ単にイリヤの話を確認してみたいのかはわからなかったが、厳しい口調でエリオットにそう命じた。
もしも、実際、サンドラが願い石を叩いたら,偽物の願い石は砕けてしまう。
そんなことになったら、サンドラは魔法使いである母親に失望し、傷付くことはわかっていたが、今の状況ではエリオットにはもうどうすることも出来なかった。
「はい……」
エリオットは自分の部屋から持って来た願い石を、サンドラの前に差し出した。
「エリオット、そこの道具箱からハンマーを持ってきておくれ。」
「……おばあさん…そんなこと……」
「早くおし!」
エリオットは仕方なくサンドラの言葉に従った。
「おばあさん…どうしてもやるの?」
「……あぁ。」
サンドラの気持ちがとても固いものだということをエリオットは悟った。
今更止められるはずもない。
エリオットが見守る中、サンドラは、ナプキンの上に願い石を置き、エリオットから受け取ったハンマーを振り下ろした。
「あ……」
乾いた音と共に、願い石は粉々に砕け散った。
サンドラは、それを呆然とみつめ、エリオットはかたく目を瞑って俯いた。
「……偽物だったんだね……」
「おばあさん……」
「エリオット、あんたはそのことを……」
「おばあさん……手紙が!」
「……え?」
二人のみつめる前で、砕けた欠片の中から今までは見当たらなかった封筒が姿を現した。
「エリオット…開けて読んどくれ。」
「良いの?」
「あぁ,頼むよ。」
エリオットは封筒の封を切ろうとするが、それはどんなに力を込めても、はさみを使っても開けられなかった。
「だめだよ、おばあさん。
どうやっても開かない。」
「そんなわけないだろう。」
エリオットから手紙を受け取り、サンドラが手をかけると、それはいとも簡単に開封された。
「……どうなってるんだ!?」
エリオットが驚き戸惑う中、サンドラは中にあった便箋を取り出し、ゆっくりとそれを開いた。
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