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「ジャック……今日はどうもありがとうな。
おかげで助かったよ。」
「お、俺は何も……」
ジャックは、フレイザーから視線を外し,小さな声でそう答えた。
「だけど、びっくりしたよ。
よくあんなこと、思い付いたもんだな。」
「あれは、たまたま……」
「たまたま…?」
ジャックは手に持った袋に目を落とす。
「今日、セリナが用があるって言ってただろ?
行ってみたら,雑貨屋につれていかれて…それで、セリナが洋服を買うのを待ってたんだ。
それから広場に向かったら、あんたがあんなことになってて……」
「なるほどな……それで、セリナがあんなことを思い付いたんだな?」
ジャックは黙って頷いた。
「セリナがジャネットっていうまで、俺、あれがおまえだなんてちっとも気付いてなかったから、びっくりしたよ。
でも……」
「なんだよ?」
「……良く似合ってたぞ。」
照れ臭そうにフレイザーが呟く。
「ば、馬鹿!あ、あんなの似合うわけないだろ!」
「似合ってたって。
……けっこう可愛かったぞ。」
ジャックの顔は赤く染まり、フレイザーもそれと同じようにほんのりと染まっていた。
「……セリナが選んだのは、俺のためのものだったんだ。
もう、男はやめなさいって言われた……」
「さすが、セリナ…良いこと言ってくれるな!」
「だ…だけど、俺……」
「……わかってる。すぐには無理だよな。
無理はしなくて良いさ。
でも……俺ももう男はやめてほしいと思ってる……」
「……わかってる。」
二人は黙りこんだまま、隣町までの道を急いだ。
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