116


「やっぱり、おかしなもんが混ざってるからそんなことになるんだ!
ケーキを食べて肌や髪が調子良くなったなんて話、聞いたことがねぇ!
最初は良くても、後できっと問題が起きるぞ!」

「あなた達、本当に何も知らないのね。
エレの果汁は、肌に付けてもしっとりするのよ。
このケーキにはたくさんのエレが使われてるんだから、当然のことだわ。
お兄さん、残ってるのを全部ちょうだい。」

「待って!私も一つほしいわ!」

声をかけたのは子供を連れた若い女性だった。



「私もイグラシアの出身よ。
ここは魔法使いにやけに偏見が強いのね。
私達はそんなこと気にしないわ。
この前、一度食べて以来、私達もまたこれが食べたくて仕方なかったのよ。ね?」

手を繋いだ子供は、母親の顔を見上げ嬉しそうに微笑みながら頷いた。



「今日は、あと三つしかないんだ。
じゃあ、これで完売だな。
みんな、どうもありがとう!」

フレイザーは、大きな声で感謝の言葉を述べ、男達は一ヶ所に集まり、その様子を憎憎しげに睨み付ける。



「今日はたまたま余所者が多くて売れたようだが、こんなことは長く続くと思うなよ!
誰もそんなケーキなんて……」

「ちょっと、あんた。」

声をかけて来たのは、体格の良い中年の男性だった。



「あんた、確か、販売店を探してたんだよな?」

「え、はい、そうですが……」

「じゃあ、俺と取り引きをしてくれ。
俺はジャーマシー出身だから、魔法使いには特に偏見はない。
果物屋をやってるんだが、店はそれなりに大きいからそこで一緒に売らせてもらうよ。」

「本当ですか?」

「あぁ、嘘なんか吐くもんか!
じゃあ、詳しいことは店で決めよう。
こっちだ。」

去って行くフレイザーと男を目で追いながら、男達は悔しそうに舌を打ち、そして散会してちりじりにその場を離れた。



「良かったわね。
取り引きもうまく行きそうだわ。」

「う、うん。
セリナ……早く行こうぜ。
俺……恥ずかしい……」

「何言ってるの。
とっても似合ってるわよ。
すごく可愛いわ。」

そう言いながら、セリナはジャックを上から下まで眺め透かした



「い、良いから、早く行こうって!」

「あ、待って!」

そう言って早足で歩き出したジャックの後を、セリナは慌てて追いかけた。


- 532 -

しおりを挟む
コメントする(0)

[*前] | [次#]

トップ 章トップ

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -