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「あぁ、良かった!
今日はまだあったのね。
エレのケーキを下さいな。
先日食べて、ものすごく気に入ったんだけど、あれからいつも売りきれてて……」
セリナは、フレイザーに小さく目配せをしながら、数人の男達の見守る中を前に進み出た。
「あ…あぁ、ありがとう。
いくつに……」
「よしな、よしな。
良いかい、お嬢ちゃん。
このケーキは、魔法使いが育てた魔法のエレの実を使って、魔法使いが作ったもんなんだぜ。」
凄みをきかせるように低い声でそう話した男を、セリナは笑い飛ばした。
「だから、なぁに?
私はイグラシア生まれのイグラシア育ちよ。
私の育った町にも魔法使いは住んでたし、魔法使いの子供と友達だったわ。
イグラシアで、魔法使いを怖がる人なんていないわよ。
ねぇ、ジャネット?」
「そ、その通りだ…だわ。
魔法使いを特別扱いするなんて、ここだけだわ。」
帽子を深くかぶり、ベージュの花柄のドレスを着た女性は、どこかおどおどした様子でそう話した。
「だ、だけど…そんなもんを食べたら……」
「私、何日か前に食べたけど、ご覧の通り、なんともないわよ。」
「お、お…わ、私はお肌がすべすべになったわ。」
「そうなんだよ!あたしもさ、このケーキを食べてからすごく肌の調子が良くなってね!」
「そうそう、肌だけじゃないんだよ。
ほら、あたいのこの髪見ておくれよ。
つやつやだろ?」
そこへ現れたのは、派手な身なりに厚化粧の似合う女性達だった。
「あ、ダルシャに予約してもらった分を取りに来たんだけど…」
「え?あぁ、それならここに……」
フレイザーは大きな包みを女性達に手渡した。
「また買いに来るからよろしくね!」
「どうもありがとう!」
フレイザーは女性達に手を振り、男達は不機嫌な顔をつき合わせながら、ひそひそと何事かを話し合う。
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