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「寂しくなりますね…」
カルヴィンの低い声が囁く。
それから数日後、一行はエルフの里を旅立つ朝を迎えた。
里のエルフ達が顔を揃えて五人を見送った。
「また、いつでも遊びに来て下さいね。」
「ありがとう、カルヴィンさん。
皆さん、本当に長い間お世話になりました。」
エルフ達と握手を交わし、手を振りながら五人はエルフの里を離れた。
「本当に良い人達だったな…」
「またいつか、皆でここに来ようよ。」
「ラシーナの町の皆にも本当のことを言いたいよな…」
ラスターの言葉に皆は黙って頷く。
ラシーナに戻り、真相を話すと言うラスターに、カルヴィンは、エルフ達が怖ろしい存在だとしておいた方が魔の山に近付く者が少ないだろうから言わないでくれと懇願した。
魔の山は、険しいだけではなく魔物の数も多い。
その上、魔力までが失われるのだから、人間が立ち入っては危険だということをカルヴィンは懸念しているのだ。
「しかし、エルフが本当は怖い者じゃないってわかったら、面白がって山に入る者は増えるだろう…
そうなれば私達のように事故に遭う者も出て来るだろうな…」
「……だよね。
カルヴィンさん達はそのことを考えてくれてるんだよね。」
「だけど…」
「皆、こっちへ!」
ラスターの言葉を遮り声をかけると、ダルシャは腰の剣を引き抜いた。
「ダルシャ、まさか…」
「あそこだ!」
その声と同時に、近くの茂みが揺れる。
ラスターも、すぐに短剣を手に取り、フレイザーは、エリオットとセリナを自分の後ろに隠すようにその前に立ちはだかった。
緊迫した空気の流れる中、茂みの中から飛び出して来たのは肌色のねずみのような小型の魔物だった。
「なんだ…脅かすなよ…
ナジュカじゃないか…」
気の抜けたような顔をして、ラスターは短剣を鞘におさめる。
セリナも魔物に優しい微笑を向け、その様子を見て、この魔物がさして害のないものだと悟ったエリオットとフレイザーも安堵の表情を浮かべた。
「う…うわぁ…!!」
そんな最中、場違いな悲鳴が上がった。
ダルシャはいつものクールな印象とは別人のようにあわてふためき、叫び声を上げながら風のように走り去って行った…
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