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「なんだよ、俺に意見を聞いておいて、その反対のものを買うなんて酷いじゃないか……」

ジャックの抗議を少しも気にしないそぶりで、セリナは微笑む。



「ジャック、疲れたんじゃない?
宿に戻って、待ってましょう。」

「いや、俺はフレイザーの所に行くよ。
ケーキ売りの手伝いをしなきゃ……」

「今日のはほとんどがダルシャの注文なんでしょう?
ダルシャのお友達があのケーキを気に入って、たくさん頼まれたらしいわよ。」

「お友達…ねぇ……」

ジャックは皮肉な笑みを浮かべながら、呆れたような声を出す。
その足は宿ではなく、広場に向かっていた。
セリナもそれに気付いたが、あえて反対することはなく、ジャックの後を着いて行った。







「あら、今日も繁盛してるわね。」

広場に着き、フレイザーの周りに人だかりがしているのを見て微笑んだセリナの表情がすぐに変わった。



「……なんだか様子がおかしいわね。」

近付くにつれ、フレイザーの周りにいる男達が、大きな声で叫んでいる言葉がセリナ達の耳を揺るがした。



「皆、こんなもの、買うんじゃないぞ!
このケーキには危険な魔法がかかってる!」

「今時、どこにエレが実ってる!?
このケーキはな、隣町の魔法使いが魔法の木に実らせたエレが使われてるんだ!
しかも、作ってるのは魔法使いだ!
こんなものを食べたらどうなるか、わかりゃしねぇぞ!」



「畜生…あいつら……!」

「ジャック、待って!」

駆け出そうとするジャックの腕をセリナが引きとめた。



「だけど、このまま放っとけないだろ!」

「あなたが今飛び出しても何もならないわ!
それよりも、ジャック…こっちに来て!
私に良い考えがあるわ!」

「良い考えって……セリナ……」

セリナは、ジャックの手を引き、近くの人気のない場所に向かった。


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