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「う…うぅ…ん」
フレイザーが目を覚ますと、そこには自分の顔を心配そうにのぞきこむ少女と大人の男性の顔があった。
「こ…ここは…」
「良かった!気が付かれたのですね!」
「あ…!あんたの髪…!」
フレイザーは上体を起こそうとした途端、身体に走る激しい痛みを感じ、低い声でうめいた。
「まだ起きあがるのは無理です。
じっとしていて下さいね。」
少女の傍らにいた男性が静かな声でそう言った。
「あ、あんた!その耳!」
フレイザーが声をあげたのはその男性の耳が人間のものとは少し違っていたからだった。
男性は、フレイザーの驚きにも少しも動じず、ただただ穏やかな笑みを浮かべる。
「ま、まさか…あんた…」
「そう、私はエルフです。」
「やっぱり、そうか!
ラスターの言った通りだったんだな。
あんた…セリナだろ?」
「ええ…あなた方はラスターのお友達ですね。」
「そうだ。
あんたがきっとエルフに捕まって働かされてるだろうからってことで、助けに来たんだ。」
「えっ…?
私が…捕まって…?」
セリナとエルフの男性は顔を見合わせてくすくすと笑った。
「……どうしたんだ?
なんで、笑ってんだ?」
「……だって…私、捕まってなんていませんもの。」
「なんだって…?
でも、ここはエルフの里じゃないのか?」
「その通り。ここはエルフの里です。
私、ラシーナの町に行くつもりが山に迷いこんでしまって…魔物に襲われかかった所を、このカルヴィンさんに助けてもらったんです。
ラスターから聞いてらっしゃるかもしれませんが、私、悪い人達に追われてて…そのことを言ったら、ここでしばらく身を隠していたら良いとおっしゃって下さって…それでお言葉に甘えてそうさせていただいてたんですが、あんまりここの居心地が良いものですから、気が付いたらもう一年以上もここに滞在してしまってるんです。」
セリナは、そんな話をしながら呑気に笑う。
「それ…本当の話なのか?
ラシーナの町で聞いた話とはずいぶん違うじゃないか。」
「ラシーナでは私達のことをどんな風に言われてるんですか?」
「それはだな…」
フレイザーは、一瞬躊躇ったようにカルヴィンの顔をうかがったが、そのまま言葉を続けた。
「……一生、エルフにこき使われるとか、食料として食われるとか…」
その言葉にカルヴィンとセリナは顔を見合わせ、声をあげて笑った。
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