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「もしかしたら道が違うんじゃないか?」
苦しげな息遣いのフレイザーが、呟いた。
「違うも何も手掛かりがないんだから、仕方ないじゃないか。」
フレイザーの少し前を歩いていたラスターが不機嫌な口調で言い返す。
「とにかく、拓けた場所に出たら一休みすることにしよう…」
最後尾を歩いていたダルシャがそう提案した。
魔の山には人が立ち入ることがほぼないせいか、まともな道すらない。
草木の少ない比較的歩きやすそうな所をただやみくもに歩き回るうちに、一行は魔の山の入口さえ見失っていた。
もう後戻りをすることも叶わない。
食べる物は今の所不自由はなく、いざとなれば小型の魔物を食べることで飢えはしのげる。
一番の問題は、意外にも精神的なものだった。
「あそこで休もう!」
ラスターが少し先を指差した。
いつ魔物が飛び出して来るかもわからない状況で険しい山道をさまよい続ける事で、四人の疲労はピークに達していた。
拓けた場所に着いた途端、四人は荷物を放りだしその場に倒れ込んだ。
「水が残り少なくなって来たな…」
「さっきの泉までは相当あるぜ。」
「どうすんだよ!」
「君はすぐに苛々するのだな。
もう少し冷静になれないのか?」
「うるせぇ!
どうせ、俺は育ちが悪いから、すぐに苛々するんだよ!
あんたみたいな貴族とは違うんだ!」
ラスターの言葉に、ダルシャは肩をすくめた。
「なんだよ、それ!
俺のことを馬鹿にしてるのか?」
「君は被害妄想が甚だしいようだな。」
「なんだと〜!!」
「ラスター、落ちつけって!」
立ちあがろうとしたラスターの肩をフレイザーが押さえ込んだ。
「どうやら、魔の山の噂はただの噂だったみたいだな。」
「噂って…あんた…やっぱり俺達を助けるためだけに一緒に来たわけじゃないんだな!?」
「……そうかもしれないな。」
「なるほど。事情は秘密ってわけか。」
「君達は、おそらくエルフの里に捕まってるであろう女の子を探してるんだったな?」
「答える筋合いはねぇ!」
「そうか…まぁ、良い。
とにかく私と君達の目的地は同じ場所だ。
それまでは、仲良くやろうじゃないか。」
ダルシャが差し出した片手を、ラスターは一瞥しただけでそっぽを向いた。
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