「どうしよう?エリオットの魔法が使えないとなると、かなりやばいぞ。
やっぱり引き返すか?」

「……帰りたけりゃ、あんたらは帰れば良いさ。
俺は一人で行く!」

「ラスター、そう意地を張るなって!
何も行かないって言ってるんじゃないんだぞ。
ほら、ちょっと腕のたつ男でも雇ってからもう一度…」

「こんな危ない山に着いて来てくれる奴なんて、みつかりっこないさ!」



「では、私を一緒に連れて行かないか?」

後ろから不意に響いた低い声に、三人が同時に振り返る。



「わぁ…」

エリオットは思わず声を漏らした。
そこに立っていたのは、長身の美青年。
金色の長い髪をなびかせ、腰には美しい宝石のはめこまれた剣を携えていた。



「あんた……もしかして、王子様?」

「いや、私はただの由緒正しき名門貴族だ。」

美青年は、髪をかけあげ、余裕の微笑を浮かべた。



「由緒正しき名門貴族…ねぇ…
その貴族様が、なんだってこんな山に?」

「フレイザー、行くぜ!
俺は貴族なんて大っ嫌いだ!
そんな奴の手を借りなくても、俺がなんとかする!」

「だけど、ラスター…」

その時だった。
藪の中から、小型の魔物達が群れをなして三人に襲いかかる。



「エリオット!
俺の後ろに!」

「わ、わかった!」

「ここは私に任せろ!」

貴族の美青年は、滑らかな質感のマントを翻し魔物の群れの真っ只中に勇み出ると、目にも止まらぬ勢いで魔物共をなぎ倒していく…



「す…すげぇ…」

エリオットとフレイザーは、美青年がまるで舞うように美しく無駄のない動きで魔物を確実に仕留めて行く様を呆然とみつめていた。
ラスターも果敢に応戦し、何匹かを仕留めた。

しばらくして、その場に残されたのは、血生臭い臭いに包まれた魔物の亡骸の山だった。



「ずいぶん、たくさん出て来たものだな…」

美青年は、マントに飛び散った血や肉片を払い除けながら、冷静にそう呟いた。
あれだけの数を相手にしたというのに、息もほとんどあがってはいない。



「あんた、それだけの腕があったら、俺達なんかと一緒でなくても一人で行けるんじゃないか?
なぜ、俺達と一緒に行きたがるんだ?おかしいじゃないか。」

「それは君達が助けを必要としていたからだ。
私が一緒だと、君達は助かるのではないか?
……と、いうよりも……今みたいなのと遭遇したら…君達だけではどうにもならないんじゃないのかい?」

「くっ…」

ラスターは唇を噛み締め、拳を固く握り締めた。


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