「ここか…」


次の朝、三人はフレイザーが見掛けたという脇道を訪れた。



「な?立て札なんてどこにもないだろ?」

「本当だ。これじゃあ、ラシーナと間違えて入りこんでしまう奴がいてもおかしくないな。」

「もう一度、聞くけど……本当に良いんだな?」

エリオットはすました顔で平然と頷いた。



(魔法が使えるようになってから、こいつ、絶対に性格変わった!
魔の山に入るっていうのに、怖がるどころが楽しそうだもんな…
あ〜あ、俺も何か特殊技能を持った大人になれば良かった…)



「じゃあ、行くか。
何があるかわからないから、気をつけろよ!」

「一番気を付けなきゃならないのはあんただぜ!
なんで、剣を買わなかったんだよ。」

「……だって、俺…
剣の使い方忘れてるから…」

「だからって、危険な山に入るのに丸腰はないだろう?」

「大丈夫!フレイザーのことは僕が守るから!」

ラスターは、そう言ったエリオットをみつめ、次の瞬間吹き出した。



「こんな女の子に守られるとは、あんたもおしまいだな…!」

「うるさい!
俺だって、いざとなったらなんとか出来るさ!
なんたって、おまえらみたいなちびじゃないんだからな!
俺は大人なんだから!!
さ!ぐだぐだ言ってないで、さっさと行くぞ!」

憮然とした表情で、フレイザーは魔の山へ向かって歩き出した。
その後を、小走りでエリオットとラスターが着いて行く。







「いいか、エリオット。
俺の傍から離れるんじゃないぞ。」

「う、うん。」

怯えたそぶりで、エリオットが頷いた。



魔の山に入ってしばらくした頃、藪の中から飛び出して来た魔物の前に立ちはだかり自信満々に呪文を唱えたエリオットは、すんでの所をラスターの短剣によって救われた。
エリオットの魔法は、この山では丸っきり効力を発揮しなかったのだ。
考えもしなかった事態に、エリオットはすっかり気落ちした。
気落ちしたのは彼だけではない。
エリオットの魔法が使えないとなると、ラスターだけで魔物の相手をしなくてはならないのだ。
フレイザーは落ちていた木の枝を拾い、それを武器にと考えたが、そんなもので太刀打ち出来ないことなど火を見るよりも明らかだった。


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