「リュシーさん!
ど、どうして…!!」

驚きを隠せないフレイザーには目もくれず、リュシーの視線はカインに釘付けになっていた。



「まぁ…!
獣人さんは思ってたよりもずいぶん大きいのね!
初めまして、獣人さん。
私、リュシーです。」

リュシーはにこにこと微笑みながら片手を差し出した。



「は、初めまして。」

カインは、戸惑いながらも同じように手を差し出した。



「まぁ、やっぱり手も大きいんですね。
まぁまぁまぁ!肉球もあるのね!」

子供のように無邪気にはしゃぐリュシーを見て、ダグラスやフレイザーは顔を見合せて苦笑いを浮かべた。



「それはそうと、リュシーさん、こんな所で何をやってるんです!
もう船は動き出してるんですよ!」

リュシーは口許をおさえ、おかしそうに笑う。



「今頃、うちの使用人達は驚いてるわ、きっと。」

「どういうことなんです?」

「私もね…急にイグラシアに行きたくなったの。
ダルシャの顔を見てたら、兄さんにも会いたくなったの…
兄さんももうそれほど若くはない…
いえ、若くてもいつ何があるかわからないわ、たとえば姉さん達のように…
それに、私に何事か起きることだってないとは言えないわ。
意地を張ってる場合じゃないって思ったの。
だから、今朝、港に着いたら、ダグラスさんに渡すお土産を買ってきてってメイドに頼んで、その隙に船に乗りこんだの。
あ、大丈夫よ!
旅行に行くってことは馬車に手紙を残して来たから。」

「そんなことなら、お屋敷の方にもちゃんとおっしゃって来られたら良かったのに…」

「それが、今朝まではまだ迷ってたから…
それに、私が旅行に行くなんて言い出したら、大袈裟にお供が着いて来て楽しくないんですもの。
あなた方とならきっと楽しい旅が出来ると思って…」

そう言いながら、リュシーはカインの顔を見上げて微笑む。



「あ、遅くなったが、こちらはリュシーさん。
ダルシャの叔母さんにあたる人なんだ。
リュシーさんには金銭面でなにかとお世話になった。」

「そうだったんですか!
それはありがとうございます。」

「まぁ、いやだわ。そんなことお気になさらないで。」


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