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「そ、それは、本当に本当なのか?」
「あぁ、もちろんだ。」
ダルシャの話を聞いたカインは、それでもまだ信じられない様子だった。
左右に首を捻りながら、部屋の中を落ちつきなく歩き始めた。
「カイン、急がせて悪いのだが、船の都合があるんだ。
なんとか今夜中に発ちたいのだが…」
「こ、今夜中!?」
ダルシャの言葉にカインはさらに落ちつきをなくした。
「手伝うことがあったら言ってくれ。
荷物は少ない方が助かるのだが…」
「いや……荷物はそんなにないんだ…
……すまないが、ちょっと出てくる。」
カインはそう言い残して家の外へ飛び出した。
「カイン、どこまで行ったんだろうね。」
「まさか、行くのがいやになって逃げ出したんじゃないだろうな?」
「まさか……!」
そんな会話を交わしていると、ちょうどカインが戻ってきた。
「待たせてすまなかったな。」
すぐに準備するからな。」
家を出る時とはどこか表情の変わったカインはそういうと、てきぱきと準備に取りかかり、あっという間に小さな荷物をまとめた。
「じゃあ、行こうか。」
「それだけで良いのか?」
「あぁ、これで十分だ。」
カインの微笑みはとても清清しいものだった。
「よし、それでは出発だ。
カイン、念のため、これを…」
ダルシャは、カインに黒い頭巾をすっぽりとかぶせ、一行は闇に乗じて港に向かって歩き出した。
*
「それじゃあ、フレイザー、頼んだぞ。」
「あぁ、まかせといてくれ。」
ダルシャと大きなトランクを引きずるフレイザーはタラップの前で堅い握手を交わした。
「それにしても、リュシーさん、遅いな。」
「こんな日に寝坊はしないと思うのだが…」
船が出る時間になっても見送りに行くと言っていたリュシーの姿は見えない。
やがて、出航を知らせるベルが鳴り響いた。
「あぁ、リュシーさんったら、どうしたんだろう?」
「もう船が出るっていうのに…」
結局、リュシーは見送りには間に合わず、船はゆっくりと港を離れた。
港に残った四人は、船影が小さくなるまで手を振り続けた。
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