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「先生、こんなもんでどうだ?」
「おぉ…とても良い感じです。
うまい具合に出来たものですね。」
「先生、リュックはこういうことがすごく上手なんですよ。」
「そうですね。
リュックさんは、以前、こういうお仕事をしてらっしゃったんですか?」
「いや、趣味と実益を兼ねたもんだ。」
「とてもそんな風には思えないですよ。
いやぁ、本当に助かりました。」
医務室には、衝立や寝台も持ちこまれ、今出来あがったばかりのこの棚にはすぐにも薬品が並べられることだろう。
「ほぉ、立派な棚が出来あがったな!」
ルイスが医務室を訪れ、棚の扉を開けたり閉めたりしながら、その出来映えに感心していた。
「これなら明日にでも診療が始められそうじゃな。」
「爺さんもなにかあったらすぐに診てもらいなよ。」
「わしは、身体が丈夫なのだけが取り柄じゃからな。
そんな心配はないよ。」
「まぁ、そう言わずにさ。
なにもなけりゃ、それで良いんだから。」
「あぁ、わかった、わかった。
なにかあったら診てもらうよ。
それより今日はここまでにして、そろそろ帰らんか?」
「僕は薬品の整理だけ済ませてしまいますから、皆さんはお帰りになってて下さい。」
「私もお手伝いします。」
クロワとクロードを残し、私達はルイスと共に闘技場を後にした。
*
「あの二人は良い仲なのかい?」
「あぁ、それなんだがな…
先生の方はクロワさんのことが好きなんだけど、クロワさんが微妙なんだ。」
「微妙っていうのはどういうことなんじゃ?」
「先生のことが嫌いというわけではないらしいんだけど、好きでもないらしい。」
「そうか、過去になにかあったんかのう…?」
「そういえば…」
「なにか知ってるのか?」
私は、クロワに世話になっていた時のことを思い出していた。
足慣らしのためにあたりを散策していた時、すれ違った男達に言われた言葉を…
「そんな女と関わっていたらえらい目にあう」
男達は、確か、そのようなことを言っていたはずだ。
それがどういう意味なのかはいまだにわからない。
今まで、そんなことがあったことさえ忘れていたが、やはりクロワにはなんらかの過去があるのだろう。
ただ、そのことを本人が話すとは思えない。
それだけに、彼女の過去がどんなことなのかを知る術はないのだが…
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