060 : 手繰りよせたなら23






「あんた達がいなくなると、寂しいよ。」

いつになくか細い声でそう言ったエヴァの後ろに隠れるようにして、ディヴィッドは俯いたまま黙りこんでいた。



「またいつか遊びに来るよ。
……ディヴィッド、母ちゃん達の言うことをよく聞いて、元気でな!」

リュックは腰を曲げ、ディヴィッドに向かって声をかける。



「……リュックさん!」

束の間黙りこんでいたディヴィッドが、泣きながらリュックの胸に飛びこんだ。
店の改築のおかげで引き伸ばされていた別れが、ついにやって来たのだ。
ディヴィッド以上にリュックもさぞ辛いことだろう。



「ディヴィッド…何、泣いてるんだ?
俺が旅に出ることは前から言ってあっただろ?
これでもう会えなくなるわけじゃないんだぞ。
旅が終わったら、また会いに来る。
それに……ここには、皆いるだろ?
母ちゃんもリータさんもサイモンも…シュリーやジョアンも、他にも一杯いるだろ!?」

そう言いながらディヴィッドの涙を拭うリュックの瞳には、溢れそうな涙が溜まっていた。



「ディヴィッド…ほら、リュックさんにこれをあげるんでしょう?」

リータがディヴィッドに手渡したのは、色とりどりの花で作った花冠だった。



「でも……」

ディヴィッドは涙を拭きながら、エヴァの顔を見上げた。



「ディヴィッドが作ってくれたのか。
とっても綺麗だな。ありがとう。
嬉しいぜ!」

リュックはディヴィッドの持つ花冠を自分の頭に載せた。



「リュック、無理しなくて良いんだ。
そんなもの……」

「俺は本当に嬉しいんだ!」

そう言うと、彼は今まで堪えていた涙がついに堪えきれなくなったようで、俯いて肩を震わせた。



「では、皆さん…どうぞ、お元気で!」

「必ず、また来ます。」

クロードとクロワが気を利かせ、別れの挨拶を口にした。
このままここにいれば、リュックがますます辛くなると考えたのだろう。



「本当にお世話になりました。
お元気で……」

「マルタン、元気でな!」

「サイモン、君もな。
エヴァにもいいかげん伝えるんだぞ。」

私が小声で囁いた言葉に、サイモンは苦笑いを浮かべながら頷いた。
私は、リュックの背中を軽く叩き、ゆっくりと歩き始めた。



「マルタン!!」

村を少し離れた頃、エヴァが私の名を呼び、駆けて来た。



「どうかしたのか?」

息を整えたエヴァは私の耳元でそっと呟いた。
あの晩、リュックとは何もなかったことを。
いくら誘ってもその気のないリュックに腹が立ち、あんな事をしたのだと。



「この話をリュックに伝えるかどうかは、あんたに任せるよ。
じゃあ、元気でね!」


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