060 : 手繰りよせたなら22






「あぁ、疲れた。
ずっとこき使われたから、足がパンパンだよ。」



エヴァの店には入れ替わり立ち替わりお客が訪れ、エヴァ達は客が途絶える夕方まで休みなく働いた。



「こんなことなら、もっとたくさんケーキを焼いておけば良かったわ。」

「あっという間になくなったね。
みんな、おいしいって言ってくれた。
それに、飲み物にもえらく喜んでくれたね。」

「お店の雰囲気や器がとても素敵だもの。
同じ飲み物でも、あそこで飲むといつもとは違った気分になれるのよ。」

「久し振りにみんなともおしゃべりが出来たし……嬉しかった。
みんな、あたしのことを暖かく迎えてくれたけど、あたしはそれが逆に辛くて……
なかなかみんなと向き合う勇気が出なかった。
でも、今日はそんな事も忘れて、昔みたいに打ち解けて話せたんだ……これもみんなあんた達のおかげだよ。
みんな……本当にどうもありがとう。」



エヴァは神妙な面持ちで私達に感謝の言葉を述べた。



「良かったな、エヴァ。
皆が、気晴らしに来れるような店になると良いな。」

サイモンはそう言って、優しい眼差しでエヴァをみつめる。



「ありがとう。
あたし…頑張るよ。
本当にいろいろと気を遣ってくれてありがとう。」

「そんなに素直な台詞、あんたらしくないぜ。」

「酷いこと言うね。
まるで、普段の私があまのじゃくみたいじゃないか。」

「その通りじゃないか。」

リュックの軽口に、その場の皆が笑った。



その日の夕食は、店の話で大いに盛りあがった。
メニューのことや料金のこと、一人暮らしの村人の誕生日やクリスマスにちょっとしたパーティを開こうだとか、次から次にアイディアが出され、夜遅くまで話し合いは続いた。
意外なことに、リータが店のことをとても楽しんでいる様子で、エヴァ以上に熱をこめて話していた。

きっと、あの店はこの親子の生きがいとなり、村のみんなにも愛される憩いの場所となることだろう。



私達は、それから数日後、ついに村を離れることになった。


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