060 : 手繰りよせたなら20
*
「ようし、それじゃあ……」
リュックとサイモンが柵にかけてあった目隠しの幌の一部を勢い良く取り去った。
「わぁ!可愛いお家だね!」
「え……これって……」
ディヴィッドははしゃぎ、リータとエヴァは戸惑ったように顔を見合わせた。
ついに、この日がやって来た。
クロワやクロードも連れ立って、私達はエヴァのための建物に向かった。
「リュック…ここはあたしの家じゃないのかい?」
「……ま、中に入ってみなって。」
リュックは微笑み、扉の方へ手を差し出した。
怪訝な顔をしながらも、エヴァ達は言われるままに扉に近付き、そして恐る恐るその扉を開いた。
「な、なんだい、こりゃあ!」
「わぁ!お店だ!
お店のお家だ!」
ディヴィッドは、早速、景色の良い窓際の席に座りこみ、リータとエヴァは、呆れたように部屋の中を眺めまわす。
「一体、どういうことなんだよ。」
「どういうって…見てわからないか?
カフェじゃないか。」
「カフェ……?」
エヴァは状況が飲みこめない様子で、小首を傾げ、リュックの顔をみつめていた。
「エヴァ…
リュックは、君がこの村で退屈をしないように…
それと、村の人達とまた昔のように仲良く出来るように、カフェを作ったらどうかって言ってくれたんだ。」
「こんな田舎の村でカフェだって…?」
「別に商売でやるわけじゃない。
作業の合間や暇な時に寄ってもらって、話でもしてもらえればと思って……」
エヴァは、私達の期待していたものとは裏腹に、酷く不機嫌な顔をしてサイモンの話をじっと聞いていた。
「サイモン、リュック…それにマルタンさん!
エヴァのことを考えて下さって、本当にどうもありがとう!
それに、このお店、とっても素敵だわ!」
「でも、母さん……
こんな村でカフェなんて……」
「あ!サイモン…昨夜、ケーキを焼いておいてほしいって言ったのは、このためだったのね。」
「そうなんだ。
おばさんの焼いたケーキはとってもおいしいから、ここで出したら良いと思って……」
「じゃあ、すぐに持って来るわ。
エヴァ、その間にあなたはお茶の準備をしておいて!」
「え……でも……」
「私も手伝います。」
渋々、厨房に向かったエヴァを見送り、私達は外に出て、他の幌を取り、不要となった柵の解体に取りかかった。
「エヴァ…あんまり気に入らなかったみたいだな……
俺、くだらないことやっちまったかな?」
「なぁに、これからさ。
エヴァは素直じゃないから、きっと照れてるだけさ。」
そう言って片目を瞑ったサイモンに、リュックの顔には苦い笑みを浮かんだ。
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