060 : 手繰りよせたなら16






「今日はなんだかあっという間に時間が過ぎた感じだな。」

「馬車の中ではそう話も出来ないし、眠るしかないからな。」

「……あんた達ともここでお別れだな。
なんだか名残惜しいが…とにかく、今夜はゆっくり飲もうぜ!」

「そうだな。
昼間、たっぷり眠ったから今夜は遅くまで起きてられそうだ。」



次の日、私達は朝早くから馬車に乗り込み、長い時間を馬車の中で過ごした。
つい先日通ったばかりのその道は、これと言って見る物もない単調な旅だ。
ディヴィッドだけは、以前一度乗って以来、馬車がお気に入りの様子で楽しそうにはしていたが、昼過ぎになった頃には疲れが出たのか、あっけなく眠ってしまった。
それからは誰も話すこともなく、うとうとしているうちに夕方になり、ようやくエヴァ達の故郷の近くの町に着いた。



「……エヴァ……どうかしたのか?」

「別に……どうもしないさ。」

サイモンが気にするのも無理はない。
彼女は、馬車に乗りこんでからほとんど話もせず、浮かない顔でただぼんやりと窓の景色を眺めていた。
慣れない移動で疲れたのかと考えていたが、彼女の表情を見ていると、どうもそればかりではなさそうだ。

夕食を済ませると、私達は酒を買い込み、宿の部屋でグラスを傾けた。



「それで、エヴァはこれからどうするんだ?」

「どうって……
うちの村じゃ特に働く所はないからね。
畑を耕したり、山菜を採って町に売りに行ったり……
昔やってたことをやるだけだよ。」

「エヴァ…あなた本当にそういう暮らしが出来るの?」

「出来るさ。
そりゃあ、身体も少しはなまってるけど、しばらくしたら……」

「そういう意味じゃなくて……
あなたはそういう暮らしがいやで、村を離れたんじゃない。
だから……」

エヴァはグラスを置き、リータの言葉に何かを考えるように俯いた。



「……その通りだ。
だけど、不思議とあの頃の生活に戻りたいって思ってた。
そうすればディヴィッドともずっと一緒にいられるし、それがあの子のためにもなると思うし、なにより、あののんびりした暮らしが無性に懐かしく思えたんだ。
……でも、村に近付くに連れ、いろんなことが心配になってきた。
あんな勝手な真似をして村を出たんだ。
みんながあたしのことを受け入れてくれるだろうか…いや、あたしのことはどうだって良いけど、ディヴィッドが傷付くようなことになりゃしないか…
それに、あたしもまたああいう退屈な暮らしがいやになってしまうんじゃないかって……怖いんだよ。」

いつもとは違う弱々しいエヴァの声に、彼女の身体が一回り小さく見えた。


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