060 : 手繰りよせたなら15






「サイモンはまだ告白してないんだな?」

「あぁ…きっと、村に着いてからになるだろうな。」

「そうか…でも、必ず伝えるんだよな?」

「それは間違いないと思う。
彼は、エヴァのことを心底愛しているみたいだからな。」

「……今度こそ、幸せになってほしいな。」

ベッドに寝転び、天井をみつめたまま、リュックは独り言のようにそう呟いた。



リュックが一番幸せになってほしいと願っているのは、ディヴィッドのことなのかもしれない。
明日の朝、馬車に乗りこみ、着いた町で一泊したらとうとう彼らとはお別れだ。
我が子のように可愛がっていたディヴィッドとの別れは、リュックにとって辛い出来事になることだろう。



「サイモンなら、ディヴィッドのこともきっと可愛がってくれるさ。
昨夜、聞いてみたんだ。
他人の子であるディヴィッドをどう感じているのかを…」

「で、あいつ、なんだって?」

リュックは、急に私の方に向き直り、身を乗り出す。



「ディヴィッドは子供の頃のエヴァにとてもよく似てるから、他人のような気がしないと言っていた。
なぁ、リュック……リータさんもそう言ってたが、ディヴィッドはエヴァとそんなに似てると思うか?」

「いや…俺もそれほど似てるとは思えねぇ。
もしかしたら、化粧をとったらああいう顔なのかなぁ?」

リュックのその返事を聞いた時、私はあることを不意に思い出した。



「そういえば……君は見たんじゃないのか?
エヴァの素顔を……」

「なんでだよ、そんなもの見たことないぜ。」

「でも、君はその……
エヴァと一夜を共にしたその朝は、彼女も素顔だったんじゃないのか?」

リュックは目を見開き、何かを言いたげに口元を小さく震わせる。
私は、そんなリュックに噴き出しそうになりながら、懸命にそれを堪えた。



「そ、そ、そんなこと、覚えてない…!!」

「そうか……」

「マ、マルタン……あんた、サイモンにあのことしゃべってないだろうな!?」

「当然だ。
彼は、まだ少し君のことも気にしているようだったし、そんなこと、言えるはずないじゃないか。」

「ぜ、絶対、言うなよ!!
こじれたら大変だからな!
さ…明日も早いんだ。
俺はもう寝るからな。」

リュックは早口でそう言うと、毛布をかけて私にくるりと背を向けた。


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