060 : 手繰りよせたなら13
「ところで、マルタン……
エヴァは、リュックのことは本当にあきらめてるのか?
リュックは本当にエヴァには全然なびかなかったのか?」
「あ…あぁ……
リュックは、ものすごく一途な男だからな。
エヴァのことは、全く、相手にしなかったようだ。
エヴァもそれを理解したから諦めた。
だから、安心したまえ。」
私の顔には、後ろめたさを誤魔化すための愛想笑いが浮かんでいた。
しかし、リュックとエヴァが一夜を共にしたことを知れば、この男は傷付くに違いない。
エヴァもまさかそんなことを自分からは言わないだろうし、私達が黙っていれば知らないままで済むのだ。
「……そうか。
じゃ、気にする必要はないんだな?」
「その通りだ。
……それより、君は全くこだわりはないのか?
その…つまり、ディヴィッドのことなんだが……」
「あぁ、それなら本当に何もない。
だって、ディヴィッドは子供の頃のエヴァにそっくりだし、それだけでもなんだか他人だと思えないっていうか…可愛いんだ。」
そう言って微笑むサイモンの言葉には、嘘が全く感じられなかった。
きっと、心底そう感じているのだろう。
彼はそれほど深くエヴァを愛しているのだ。
「でも…そのディヴィッドもリュックと同じ部屋を選んだ……」
「それは仕方がないさ。
リュックとは、一緒に過ごした時間が君よりも長いのだから。」
「……なんだか、やっぱりリュックには妬けちまうな。」
「そんなことは今だけだ。
これから先、ディヴィッドは君と過ごす時間の方がずっと長くなるのだからな。」
私がそう言うと、サイモンはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、マルタン。
やっぱり、あんたは大人だな。
うちの村には、あんたくらいの年の人がほとんどいないんだ。
年下かずっと年上だ。
だから、こういう相談ってしにくくってさ。
あんたと出会えて良かったよ。
旅が終わったら、ぜひまた会いに来てくれよな!」
「あぁ、必ず立ち寄らせてもらうよ。」
サイモンの差し出した片手を、私は力強く握り締めた。
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