060 : 手繰りよせたなら11


「……俺……」



まるで独り言のように呟かれたその声に、皆の視線が一斉にサイモンの元に集まった。



「なんだよ…どうかしたのかい?」

「……俺、どこかでそんな話を聞いたことがあるぞ。」

「あんたまでそんな馬鹿なことを……
そんなことを言う奴は、大方、夢でも見たか、酔っ払ってたかだね。
現実に……」

「あ−−−−っ!」

サイモンの発した一際大きな声に、皆の驚いたように彼をみつめる。



「なんだよ、大きな声出して…!」

「思い出した!
おばさんとエヴァを探してた時のことだ。
酒場で、その町に来てた大道芸人と同じテーブルになった時、その男がそんな話をしてたんだ。
なぁ、おばさん…覚えてないか?
あれはどこの町だったか……」

「覚えてないわ。
私、酒場で飲んだ記憶なんていないもの……あ……」

リータの言葉が不意に途切れ、彼女はなにかを思い出すように、視線を宙に泳がせた。



「……サイモン…確か、あなたが酒場に行ったのは最後の晩だったと思うの。
あなたに長いこと迷惑をかけるのも悪いし、もうエヴァを探すのは最後にしようって行ったあの晩……あなたは一人で酒場に行ったことがあったじゃない。」

「そうだ!
おばさんの言う通りだ!」

「サイモン!それはなんて町なんだ!?」

「町の名前は覚えちゃいないが、場所ならわかるぜ!」

「ほ、本当か!?」



俄かに場は緊張した雰囲気になり、忘れかけていた海底神殿のことが急に現実味を帯びた気がした。



「で、サイモン!
その大道芸人はどんな話をしてたんだ?」

「それが……
あんまりよく覚えてないんだ。」

「きっと、サイモンも疲れてたんだと思うわ。
あの頃は、短い期間であちこち回って……
……私も、もうへとへとだったもの……」

リータは当時を思い出したのか、しみじみとした口調でそう話した。



「……ごめんよ。
あたしのせいで、迷惑かけたんだね……」

「子供のことが心配だったのよ。
あなたはまだ若かったし、無事に産めるかどうかそれがとても心配で……」

エヴァは黙ったままで俯いて、小さく何度も頷いた。
今頃にして、彼女は母親のそんな想いを理解したのだろう。
誰しも、まだ若い頃にはそういう想いに気付かない。
だからこそ、無茶なことが出来るのだ。
わかっていれば、最初から誰もそんなことはしない。


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