060 : 手繰りよせたなら10






「リュック、もっと飲みなよ。」

「もう良いよ。
昨夜、いやというほど飲まされたから、もう無理だ。」

数日後、私達は町を離れた。
共に町の復興に汗を流して来た町の者達は、まるで、昔からの友人のように別れを惜しんでくれた。
中でも、年老いた院長の落胆ぶりには、こちらまで同情してしまう程だった。



町を出た私達は、その足で隣町のエヴァの家に立ち寄った。
彼らもすでに町を離れる準備は出来ており、私達が着たら送別会をしようと待っていたとのことだった。



「相変わらず、情け無いねぇ…
昨夜は昨夜、今日は今日だよ!」

「エヴァ、お止しなさい。
あなたも少しずつお酒をやめるんじゃなかったの?」

リータにたしなめられ、エヴァは小さく方をすくめる。



「……サイモン、エヴァには気持ちを伝えたのか?」

「それが…まだなんだ。
なかなかタイミングが掴めなくてな。」

「そうか…じゃあ、村に戻ってからになりそうだな。」

私は隣の席に座ったサイモンと、そんなことを囁きあった。



「ところで、皆さんはこれからどこに行かれるの?」

「どこって…場所は決めてないんだが、とりあえず、途中まではあんたらと一緒に行こうと思ってる。」

「行き先も決めてないとはおかしな旅だね。
暇潰しってことなのかい?」

「そういうわけじゃないんだが…要するにどこに行けば良いかわからないんだ。」

「はぁ…?」

エヴァは呆れて、大きな口を開けてリュックの顔をみつめた。



「つまりだな…俺達はちょっとした探しものをしてるんだけど、その手掛かりがみつからないんだ。」

「何を探してるんだよ。」

「そ、それは…だなぁ……」

「……海底神殿です。」

言い澱むリュックの横から、クロードがさらっと口を挟む。



「海底神殿?
なんだ、そりゃ。
まさか、海底に神殿があるっていうんじゃないだろうね。」

「その通りです。
リュックさんはその海底神殿を探してらっしゃるんです。」

どこか毒を含んだその言葉。
相変わらず、クロードはそんなことを少しも信じてはいないようだ。



「馬鹿馬鹿しい!
そんなもん、あるはずないだろう。
それじゃあ、なにかい?
魚達が神殿を築いて、そこで毎晩お祈りでもしてるっていうのかい?」

「エヴァ…そんな言い方、良くないわ。」

「あんたさぁ…あたしの生活のことをいろいろ言う前に、そんな馬鹿なことを考えるのはやめて、好きな女の所に戻ったらどうなんだい?
いい若いもんが、そんな途方もない夢を追いかけるなんてどうかしてるよ。
そんなことは今日限りやめて、まともに働いてあんたの好きな女を幸せにしておやりよ。」

エヴァのきつい言い方に、リュックは何も答えずで苦々しい笑みを浮かべた。


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