060 : 手繰りよせたなら10
*
「リュック、もっと飲みなよ。」
「もう良いよ。
昨夜、いやというほど飲まされたから、もう無理だ。」
数日後、私達は町を離れた。
共に町の復興に汗を流して来た町の者達は、まるで、昔からの友人のように別れを惜しんでくれた。
中でも、年老いた院長の落胆ぶりには、こちらまで同情してしまう程だった。
町を出た私達は、その足で隣町のエヴァの家に立ち寄った。
彼らもすでに町を離れる準備は出来ており、私達が着たら送別会をしようと待っていたとのことだった。
「相変わらず、情け無いねぇ…
昨夜は昨夜、今日は今日だよ!」
「エヴァ、お止しなさい。
あなたも少しずつお酒をやめるんじゃなかったの?」
リータにたしなめられ、エヴァは小さく方をすくめる。
「……サイモン、エヴァには気持ちを伝えたのか?」
「それが…まだなんだ。
なかなかタイミングが掴めなくてな。」
「そうか…じゃあ、村に戻ってからになりそうだな。」
私は隣の席に座ったサイモンと、そんなことを囁きあった。
「ところで、皆さんはこれからどこに行かれるの?」
「どこって…場所は決めてないんだが、とりあえず、途中まではあんたらと一緒に行こうと思ってる。」
「行き先も決めてないとはおかしな旅だね。
暇潰しってことなのかい?」
「そういうわけじゃないんだが…要するにどこに行けば良いかわからないんだ。」
「はぁ…?」
エヴァは呆れて、大きな口を開けてリュックの顔をみつめた。
「つまりだな…俺達はちょっとした探しものをしてるんだけど、その手掛かりがみつからないんだ。」
「何を探してるんだよ。」
「そ、それは…だなぁ……」
「……海底神殿です。」
言い澱むリュックの横から、クロードがさらっと口を挟む。
「海底神殿?
なんだ、そりゃ。
まさか、海底に神殿があるっていうんじゃないだろうね。」
「その通りです。
リュックさんはその海底神殿を探してらっしゃるんです。」
どこか毒を含んだその言葉。
相変わらず、クロードはそんなことを少しも信じてはいないようだ。
「馬鹿馬鹿しい!
そんなもん、あるはずないだろう。
それじゃあ、なにかい?
魚達が神殿を築いて、そこで毎晩お祈りでもしてるっていうのかい?」
「エヴァ…そんな言い方、良くないわ。」
「あんたさぁ…あたしの生活のことをいろいろ言う前に、そんな馬鹿なことを考えるのはやめて、好きな女の所に戻ったらどうなんだい?
いい若いもんが、そんな途方もない夢を追いかけるなんてどうかしてるよ。
そんなことは今日限りやめて、まともに働いてあんたの好きな女を幸せにしておやりよ。」
エヴァのきつい言い方に、リュックは何も答えずで苦々しい笑みを浮かべた。
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