060 : 手繰りよせたなら9






「え…ええっ!
そんなことが……?」

私達は、エヴァの家で昼食をごちそうになった後、町を離れた。
急な話だが、数日中には故郷に戻るつもりだとのことで、私達はその前にもう一度会うことをエヴァ達と約束した。



「俺達も驚いた。
話し合いすらまともに出来るかどうかって悩みながら来たっていうのに、あんなに簡単に和解出来るなんて考えてもなかったし、その上、エヴァが村に帰るなんて言い出すとは……」

「そりゃあそうよね。
誰だって驚くわよね。
でも、酒場で一緒に働いてみて感じたんだけど、エヴァさんって意外と素直な人よ。
……あら?意外だなんて言ったら失礼ね。」

そう言いながら、クロワは小さく肩をすくめる。



「意外といえば、エヴァがクロワさんのこと、客あしらいがすごくうまいって誉めてたぜ。
クロワさんがあんな場所にいること自体、俺には想像も出来ないくらいなんだけどな。」

「その通りですよ。
あんな場所にクロワさんは似合わない。
何人かクロワさんに言い寄った男までいたんですよ!」

クロードは、眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔でそう話した。



「先生……あんなの酔った上の勢いじゃないですか。
酔いがさめたら、忘れてますわ。」

「いえ、そうじゃないですよ。
特に、髪の黒い筋肉質の男……彼は、かなりしつこく迫ってたじゃないですか。」

「へぇ……そんなことまであったのか。
でも、もう今後はクロワさんも酒場を手伝うことなんてないし、安心だな。」

「ええ、もうあんなことはやめて下さいね。」

クロードの言葉に、クロワは曖昧な微笑みを返した。



商店街は、私達が旅に出る時よりもさらに整い、もうほとんどの店が営業を始めていた。
他所の町から手伝いに来ている者もいつの間にかいなくなり、私達の住んでいた急ごしらえの宿舎もすでに解体されていた。



「そろそろ、ここを離れませんか?」

「そうだな…
確かにここまで復興したんじゃ、ここにいる必要はないが……
あ……もしかして……」

クロードは、ゆっくりと頷き、苦笑いを浮かべた。



「そっか……
院長先生はまだ諦めてないんだな。」

「そうなんですよ。
院長にはお世話になりましたし、良い方だと思うのですが、かといって言われるままあの診療所を継ぐことなんか出来ませんから……」

思いがけず長居をしてしまったこの町だが、ようやく離れる時が来たようだ。


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