060 : 手繰りよせたなら8


「だけど、エヴァ……
あんた、故郷が嫌いだったんじゃないのか?」

「そりゃあ、確かに若い時は嫌いだったよ。
あんな何の刺激のない田舎の村…大嫌いだった。
……だけどね…あいつと別れて必死になって働いてた時……
思い出すのは村のことばかりだったんだ。
何度帰りたいと思ったか知れないよ。
だけど、帰れなかった…一生、帰れるはずがないと諦めてた。
自分がしでかしたこと考えたら当然だよね……
でも……あんた達が帰れるチャンスを作ってくれた。」

話すエヴァの隣で、リータはゆっくりと頷いた。



「昨夜、この子とずっと話しあったの。
離れてからの出来事を、この子は全部話してくれた。
……仲の良かった昔に戻れたような気がしたわ。
そして、どうしてもっと真剣に捜さなかったのか後悔したわ。
もっと早くにみつけていたら、この子もこんなに苦労することはなかったのに……」

そう言いながらリータは口許を押さえて俯いた。



「何言ってんだよ。
悪いのは私なんだから……
自業自得ってやつさ。」

「でも……」

「おばさんは一生懸命捜したじゃないか。
そのせいで、身体まで壊して……」

「サイモン……
母さんに良くしてくれたらしいね。
ありがとうよ。」

「俺は別に何も……」

謙遜したサイモンは、静かに首を振る。



まさか、たった一夜にして、エヴァの気持ちがこれほど変わるとは思ってはいなかったが、きっとそれは彼女にとってもディヴィッドにとっても良いことなのだろう。
その証拠に、エヴァはとても満ち足りた瞳をしていた。



(今回も、リュックの想いが叶ったな……)



「あんたは昔からそうだった。
困ってる人がいたら放っておけなくて……
そして、誉められるのが苦手で……」

「そ、そんなこと……」

サイモンはさらに深く頭を垂れた。



「今回の旅行で、ディヴィッドがすごく変わったことも決心に繋がったんだ。
あの子…すごく明るくなった。
よく笑うし、よく話すようになって……ついさっきまでおしゃべりしてたんだけど、疲れたらしく今は眠ってるんだ。
十日やそこらの旅行で、あの子があんなに変わったこともショックだった。
あの子…人見知りで、大人の顔色ばかりみておどおどして…ちょっとへんてこな子だっただろう?
そうなったのがあたしのせいだったんだってこと…やっと気付いたんだ。」

エヴァは、そう言って悔やしそうに唇を噛み締めた。


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