060 : 手繰りよせたなら3
*
「なぁ、マルタン……
あの二人、どうなると思う?」
「どうって…思いの外、早くに打ち解けたじゃないか。」
「そうじゃなくて……
エヴァはまた故郷の村に戻ると思うか?
それとも、和解は出来てもこのままかな?」
「あぁ、そういうことか……
そうだなぁ…エヴァは故郷を嫌って飛び出したんだし、すぐには決心がつかないだろうな。
でも、リータさんと和解出来た事だし、いずれは気も変わるんじゃないだろうか?」
「……そうだよなぁ…
いくらなんでも、すぐにあの村に戻るなんてことは無理だよなぁ…」
リュックは、天井をみつめながら、まるで独り言のように呟いた。
エヴァは、酒場の勤めを休み、私達は、つい先程までエヴァの家に滞在していた。
隣町に戻れないことはなかったが、旅の疲れもあり、その日は町の宿屋に泊まることにした。
エヴァが家に泊まっていくように言ってくれたが、彼女の家はあまり広くなく、居間の長椅子で寝るよりは宿屋で手足を伸ばして眠りたかったからだ。
それに、エヴァもひさしぶりにリータと水入らずで話したいこともあるだろう。
「それにしても、クロワさんの話は意外だったな。」
「クロワさんがどうかしたのか?」
「あんた、エヴァの話聞いてなかったのか?
こないだ、俺達がいない時に、クロワさんが酒場を手伝ってくれたって話だよ。
クロワさんはああいう場所は苦手だと思ってたのに、エヴァはクロワさんの客あしらいをうまいもんだって誉めてたじゃないか。」
「あぁ、そのことか……
彼女は以前にも……」
「以前……?
クロワさんは前にも酒場で働いたことがあるのか?」
「え……いや……
昔、なにかのお店で働いていたとか聞いたことがあったから……」
不意に頭をよぎったのは、私がソレイユの屋敷にいた時、クロワが酒場で働いていたという話だった。
しかし、その時の話をすると、私のことも話さなくてはならなくなってしまう。
別段、リュックに隠さなければならないような話ではないとは思いながらも、やはり、あまり話したくない。
それは、もちろん、相手がリュックだからというわけではなく……
きっと、彼女のことを思い出したくないのだと思う。
「普通の店と酒場じゃ、客あしらいの方法も全然違うだろう。」
「……それもそうだな。」
私は曖昧な微笑で、今の話を誤魔化した。
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