058 : 坂を上って1


「なんだ、ディヴィッド……
花冠だなんて、女の子みたいだな!」

「え……でも、僕……」

「もうっ!サイモンおじちゃんったら古いんだから!
こういうことに、男も女もないの!」

困ったような顔をして俯くディヴィッドの前に、ジョアンが立ちはだかり、サイモンを見上げ声を荒げた。



「そ、そうなのか?
そりゃあ、すまなかったな。」

「本当にすごく上手……
ねぇ、ディヴィッド…今度この冠の作り方、教えて。」

シュリーは、花冠をしげしげと眺めた後に顔を上げ、ディヴィッドにそう声をかけた。



「う、うん、良いよ。」

照れ臭そうに答えるディヴィッドの顔に、小さな笑みが浮かび、それを見て私もようやく安堵した。




「こんなのシュリーに作れるわけないじゃない!
あんた、不器用なんだから。」

「ちゃんと教えてもらったら、私にだって出来るわよ!」

「無理、無理!」

「なんですって〜!」

憎まれ口を叩くジョアンに、穏やかに見えていたシュリーが目を吊り上げて睨み付けた。



「こらこら、喧嘩するんじゃないぞ。
おまえ達、そろそろ、家に戻った方が良いんじゃないか?
夕飯の支度、手伝わなくて良いのか?」

「あ!大変だ!」

「早く帰らなきゃ!
あ、ディヴィッド、また明日ね!」

「う、うん、またね!」

今の喧嘩を即座に忘れたように、手を繋いで駆け出した二人の少女に、ディヴィッドははにかみながら小さく手を振った。




「……本当にけたたましい奴らだろ?」

「元気な良い子たちじゃないか。
じゃあ、俺達もそろそろ……」

「あ…その前にちょっと寄りたいところがあるんだ。
……こっちだ。」



サイモンは先頭に立ち、私達を村のはずれに案内した。
さらに、なだらかな坂を上り、しばらくして辿り着いた先は丘の上だった。



「わぁ…すっごく綺麗!」

「こりゃあ、絶景だな!」



空を鮮やかな茜色に染め上げる大きな太陽が、連なる山の間にゆっくりと沈むところだった。
それは、息を飲むほど美しく幻想的な光景だ。



「ここからの景色は一番なんだ。
エヴァとも小さい頃……」

「え……?」

「あ…あぁ、なんでもない。
さ、そろそろ戻ろうか。」

慌ててエヴァの話を誤魔化したサイモンは、まだ沈みきらない夕陽に背を向け、さっさと歩き始めた。


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