056 : 砂上の夢5


「……大変だったんだな。」

「あら、ごめんなさい。
昔のことを思い出したら、やっぱり……
そうそう、エヴァとあの男の出会いのことだったわね。」

リータは指で涙をそっと拭い、グラスのお茶を一口含んだ。



「とにかく、エヴァはこの村のことを嫌ってた。
そう…あれは確かエヴァが十四かそこらの時だったかしら。
一度、村の人達と、この先の町に大道芸を見に行ったことがあったの。
そこは大きくて賑やかな町でね。
こことは違って、商店がたくさんあるし、エヴァには町を歩いてる人達もすごくおしゃれで素敵に見えたんだと思うわ。
今までは、この近くの町にたまに買い出しに行くくらいのものだったから、エヴァにはいろんなことがとても衝撃的だったみたいなのよ。
それから、次第にエヴァは変わっていった。
今までは文句一つ言わなかったのに、家のことも畑仕事もだんだんと手伝わなくなった。
そして、ついにはあの町に働きに行きたいと言い出したの。
あの町で働いて、お金を貯めて大きなお屋敷を建てるんだとか、お店を開くんだとか、そんなことばかり言い始めるようになったの。
そのことで私達はしょっちゅう喧嘩をするようになって、見かねた近所の人が、隣町の八百屋で働いてみたらどうだって話をつけてきてくれたの。
エヴァは八百屋なんていやだとかどうとか言ってたけど、働けばわずかでもお金がもらえるわ。
そのことに気付いたのか、エヴァはそこで働くようになったわ。
最初のうちは家に戻って来てたけど、いつの間にか宿屋で働くようになっていて、そこに住みこませてもらうようになってたの。
稼いだお金はすべて洋服に注ぎこんでいたみたい。
そして、しばらくした頃、エヴァは宿屋から姿を消した。
きっと、エヴァはあの町に行ったんだってすぐにピンと来たわ。
思った通り、エヴァはあの町の宿屋で働いていた。
見違える程垢抜けて、すぐにはエヴァだとわからない程だった。
エヴァは、機嫌も良く、村にいた時よりずっと明るくもなっていた。
一生懸命働いて、この町に大きな家を建てるから、そしたら一緒に暮らそうって、そりゃあもうキラキラした瞳であの子は言ったわ。
あんな都会に家を建てるなんて無理だろうけど、若いエヴァには、あの村にいるよりこの町で働く方が楽しいのかもしれない…そう思い、私はエヴァの意志を尊重し、村に帰ったわ。
でも、それから一年も経たないうちに……」

長い昔話の果てにリータの声は重くなり、その表情は暗く曇った。


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