056 ： 砂上の夢３
「ですが、彼には将来を誓った女性があり、しかも、今は長い旅をしている身。
残念ながらエヴァの希望には添えなかったのです。」
「そうだったの……」
エヴァはリュックの顔を見ながら大きく頷いた。
「だから…ってわけじゃないんだけど、俺は町を離れる前に、エヴァとあんたを引き合わせたいと思ったんだ。
エヴァは、一生懸命働いて女手ひとつでディヴィッドのことを育てている。
それは立派なことだと思うんだ。
だけど……良い状況じゃない事も確かだ。
ディヴィッドは小さいうちから一人で寂しい想いをしている。
エヴァは、仕事は一生懸命やってるが、その分家にいる時はほとんど何もしないみたいだ。
それだってわかるんだ。
仕事も家のこともどっちも完璧になんて、そりゃあなかなか出来るわけはない。
でも……
俺、なんとかしてやりたかったんだ。
ディヴィッドがなんとか寂しくないようにしてやりたくてな……」
「……ありがとう、リュックさん……
ディヴィッドのことをそんなに真剣に考えて下さって……」
リータは瞳を潤ませ、リュックの手を握り締めた。
「ねぇ、リュックさん…エヴァは、酒場で働いているのね。
女手ひとつでってことは、もうあの男とは別れてるのね？
お願い、もっと詳しくあの子のことを教えてちょうだい。」
リータは真っ直ぐな視線でリュックをみつめる。
「あ…あぁ…
俺達も、エヴァと知り合ってそんなに長くはないけど、知ってることはなんでも話すよ。
そういえば、ディヴィッドは父親の記憶はほとんどないみたいだから、別れたのはあの子がまだずいぶん小さい頃だと思う。」
「そうだったの……
ろくでもない男だったから、うまくいくはずはないと思ってたけど、そんなに早くに別れてたのね…
どうして、その時、ここに戻って来なかったのかしら……」
「エヴァにも意地があったんだろうな。
反対を押し切って家を出た手前、戻りたくても戻れなかった…
……以前そんなことを言ってたよ。」
「……なんて馬鹿な子……」
リータは小さな声でそう呟いた。
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