056 : 砂上の夢1
*
「さぁ、ここだ。」
リュックが私達を案内したのは、村の中心部からはややはずれた所にある一軒の家だった。
何かの施設等ではなく、個人の家のように見える。
リュックが扉を叩こうとしたまさにその瞬時、不意にその扉が開き、中から中年の女性が顔をのぞかせた。
「あ…どうも!」
「……この子が……!」
女性は、ディヴィッドの顔を見るなリ声を詰まらせ、片手で口元を覆った。
「……リュックさん…?
この人は?」
「それは……だなぁ……」
「食事の用意が出来てるわよ。
さぁ、早くお入りなさいな。」
返事に困るリュックに助け舟をだすように、女性は私達を部屋の中に招き入れた。
*
「どう?ディヴィッド…おいしい?」
「うん、すっごくおいしいよ!」
「こんな時間まで食べてなかったんだ。
しかも、今日は山登りまでしたんだからな。
腹が減ってただろう?」
「うん!」
笑顔で料理を口に運ぶリュックを見て、女性は満足げに微笑む。
リュックは、この女性のことをまだ何も話さない。
もしかしたら、ディヴィッドの前では話にくいことなのかもしれない。
会話の雰囲気から察する限り、さほど親密な関係ではなさそうだ。
「さぁ、ディヴィッド。
これもおいしいわよ。
明日はこれでパイを焼いてあげましょうね。」
「わぁ!おいしそうなぶどうだ!
僕、ぶどうが大好きなんだ。」
「……まぁ、そうなの!?
もうずいぶん前に死んじゃったけど、私の夫がぶどうが大好きだったのよ。」
ディヴィッドはこの旅に出て以来、人見知りが直ってきたように感じていたが、この女性に対しては特にそんな風に思えた。
*
「ディヴィッドはもう寝たのか?」
「あぁ、ベッドに寝かせたらあっという間だったよ。」
女性はその報告に穏やかな笑みを浮かべる。
昼食にはずいぶん遅く、かといって夕食には早い曖昧な時間の食事を終え、汗を流させてもらったディヴィッドは、疲れが出たのか、すぐに寝付いたらしい。
「リュック…
それじゃあ、聞かせてもらおうか。
この方がどなたで、なぜここに来たのかを…」
私がそう言うと、リュックと女性は顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
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