055 : 飛燕1
「確か、リュックはあっちに向かって走って行ったな?」
「うん、そうだね。
そんなことより、マルタンさん…足は大丈夫なの?」
「え…?あ、あぁ…
十分休んだから大丈夫だ。」
少し歩くと、眼下にのどかな村の風景が広がった。
きっと、リュックの行き先はあの村だ。
あの村でなんらかの用があったのだろう。
しかし、こんな村に、リュックは知り合いがいたのだろうか?
それに、私達をここに足止めする理由とはなんだろう?
わざわざ足止めされているのに、彼を探しに行っても良いものかという心配もあったが、予期せぬ出来事があったかもしれないのだ。
やはり、行くしかないだろう。
「ディヴィッド、本当に何も…」
「あ!リュックさんだ!」
ディヴィッドに話しかけた時、ちょうど、リュックの姿をみつけたらしく、ディヴィッドは背伸びをしながら手を振った。
「……すまなかったな。
待たせちまって……」
息を切らせたリュックが、私達の所に駆け着ける。
「リュック…その…
休める場所はみつかったのか?」
私は、ディヴィッドに気付かれないようそう言いながら目配せを送った。
「あぁ……みつかった。
ディヴィッド、腹減っただろ?
さ、こっちだ。」
リュックはひょいとディヴィッドの身体を持ち上げると、肩車をして村の方向へ歩き始めた。
彼の用事は無事に済んだようだ。
そして、ようやくこの旅の目的がわかる事を私は予感した。
「ディヴィッド、この村どう思う?」
「うん、すごく良い所だね!
広くて気持ち良いや!」
「だよな。
ここだったら、思いっきり遊べるよな!
それに、この村には、おまえと同じくらいの子供もいるみたいだぞ。」
「へぇ……」
後ろから見ていると、リュックとディヴィッドは本当に親子のようだ。
出来る事ならそうなってほしいと思う程だが、簡単にそんなことが出来るはずもない。
リュックもそれがわかっているからこそ、今回の旅行を計画したのだろうが、皮肉にもこの旅行がますます彼らの絆を深めてしまったようにも思える。
「わぁ!」
ディヴィッドが不意に声を上げ、身体を丸める。
「おぉっと……どうした?」
「リュック…燕だ。
燕が、今、ディヴィッドの脇をかすめ飛んでいったんだ。」
「燕……?」
ディヴィッドはあたりを見渡したが、燕はすでにどこかに飛び去っていた。
「そういえば、ディヴィッド…知ってるか?
燕が低く飛ぶ時は、雨が降る前触れなんだぞ。」
「そうなの?
リュックさんは物知りなんだね!」
「いや、以前、誰かにそんな話を聞いた事があるだけだ。」
それを話したのは私だ。
だが、あえてそれを言う必要もない。
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