052 : 風を追い越して2
*
「わぁ!すごいや!
うわっ!あ、あぶないっ!」
まるで生きているかのように宙を舞う何本ものピンを、ディヴィッドは目で追いながら、歓声を上げる。
その顔は上気し、瞳はきらきらと輝いていた。
次の朝早くに町を出発した私達は、けっこうな強行軍を続け、また二つ先の町に着いた。
今までに通り過ぎた町とは違い、そこは大きく賑やかな町だった。
ディヴィッドは町の雰囲気に圧倒され、どこか不安げな様子だったが、夕方近くになって広場での大道芸が始まると、その表情は一変した。
ディヴィッドは初めて目にする大道芸にすっかり魅了され、最後には立ち上がって拍手を送っていた。
大道芸がよほど楽しかったと見え、ディヴィッドはその後、夕食を採りに町中を歩いた時も少しもおどおどした態度は見せなかった。
町に着いたばかりの時とはまるで違い、興味深げにあたりを見渡し、レストランを選んだのもディヴィッド自身だった。
そこでの食事中もディヴィッドは興奮した様子で、先程の大道芸のことをずっと話し続けていた。
宿に着いた頃には、はしゃぎすぎて疲れたのか、ディヴィッドの瞼は半分は閉じていた。
しかし、リュックが疲れたかと訊ねると、ディヴィッドは首を振ったが、その仕草とは裏腹に、彼は長椅子にもたれかかったまま眠ってしまった。
「よっぽど疲れてたんだな。」
リュックはディヴィッドの小さな身体をひょいと抱き上げ、ベッドにそっと寝かせた。
「そりゃあそうだろう。
朝早くからほとんど休みもせずにここまで歩いて来たんだからな。」
「それにしても、こいつ…本当に根性あるよな。
俺、途中でおぶってやろうかと思ったんだが、弱音のひとつも吐かなかった。」
「……普通の子供よりは苦労してるから、自然と強くなったんだろう……」
「……そんなに頑張らなくても良いのに……」
そう呟きながら、リュックは、すやすやと眠るディヴィッドの髪を優しく撫でる。
「……そうだな。」
*
「わぁ!すごいや!
なんて早いんだろう!」
次の日、私達は馬車に乗り込んだ。
ディヴィッドは、窓から顔を出し、あっという間に流れていく景色に興奮を隠せない様子で声を上げる。
「馬車ってこんなに早いんだね!
馬車だったら、すぐにでもこの世界を一周出来そうだね!」
はしゃぐディヴィッドを、リュックは優しい眼差しでみつめていた。
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