052 : 風を追い越して1






「じゃあ、行って来るね!」

「あぁ、楽しんでおいで。
マルタン、リュック…ディヴィッドのこと、よろしく頼んだよ!」



あれから、エヴァはまるでリュックとは何事もなかったかのように振る舞い、それでリュックも安心したのか、彼らの間にぎくしゃくしたものは少しも感じられなくなった。
町の復興も思った以上に順調に進み、今では燃えた商店の大半が元の場所に建ち並び、そのうちの半分以上がすでに商いを始めている。
アーノルドの家も修繕され、つい先日、ナンシーとイーヴが戻り、アーノルドも私達の宿舎を出て行った。
それなりに状況は落ち着き、私達だけではなく、クロワやクロードもようやく忙しさから解放された。

そんなある日、リュックがいきなりディヴィッドを連れてちょっとした旅行に行こうと言い出した。
なんでも、ディヴィッドはあの町を出たことすらほとんどないとのことで、リュックは、この町を離れる前にディヴィッドに楽しい思い出を作ってやりたいと考えたのだろう。
しかし、それなら二人の方が良いのではないかと思ったのだが、リュックは私にもぜひ一緒に来てほしいと引かなかった。
そして、不思議なことにリュックは旅の目的地を話さない。
気の向くままに進むだけだと口では言っているが、リュックは何度も地図を見ては道を確かめ、とてもあてのない旅だとは思えない。








「ディヴィッド、疲れただろう?
おまえ、こんなにたくさん歩いたことはないんじゃないか?」

「うん、でも、すっごく楽しいよ。
だって、こんな遠くに来たのは初めてだし、こんな宿屋に泊まるのも初めてだし、さっきみたいなお店でごはんを食べるのも初めてだし……
何もかもが初めてのことなんだもん!」

「おいおい、ここはまだおまえが住んでた町の隣の隣だぜ。
それに、ここには特に面白いものもないじゃないか。」

「でも、僕、本当に楽しいんだもん!」

ディヴィッドは、興奮気味にそう話し、無邪気な笑顔を見せた。



「明日はもっと面白いものを見せてやるからな。
さ、明日の朝も早いぞ。
早く寝るんだ。」

「僕、まだ眠くないよ……」

「良いから横になってろ。」

リュックに促され、渋々横になったディヴィッドだったが、すぐに規則正しい小さな寝息が始まった。



「……やっぱり疲れてたんだろうな。」

「そうだろうな。」

リュックは明日は面白い物を見せるとディヴィッドに言った。
彼は明らかに行き先を決めている。
なのに、なぜ、それを私に隠す……?
喉元まで出かかった疑問を私は無理に飲みこみ、リュックの企みをこのまま見届けようと思った。


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