051 : 誘惑6
*
「大丈夫なのか?
会いたくないなら無理しなくて良いんだぞ。」
「昨夜も行かなかったんだ。
今日も行かないんじゃ、却って気まずくなるからな。」
「……そうか。」
次の日、リュックはいつものように店の手伝いに行くと言い出した。
確かに、このままエヴァを避け続ければ、リュックの言う通り、なおさら気まずくなるだろう。
昨夜、エヴァと会わなかったことで彼の気持ちもずいぶんと落ち着いたようだし、このまま何事もなくすんでくれれば良いのだが……
「リュック、今度はグラスを少し持ってこなきゃいけないね。」
「そ、そうだな。」
落ち着き払ったエヴァとは裏腹に、リュックはまだどこか動揺しているようだった。
私達が店に着いた時には、すでにエヴァが片付けを始めていた。
エヴァがもう大丈夫だと言うので、私は真夜中に宿舎に戻ったが、きっと彼女は明け方まで客の相手をしていたはずだ。
それなのに、彼女は疲れた様子を少しも見せない。
店には相変わらず開店当初とほぼ変わらない程の客が詰め掛けていたが、最近は、酔っ払って店で眠り込んでしまう客が少なくなっただけ、ずいぶんとマシになった。
とはいえ、開店の次の日の店内はかなり酷い有り様だ。
割れたグラスや酒瓶の欠片を拾い集め、散らかったものを片付け掃除をする。
それは、けっこう骨の折れる仕事だ。
エヴァは意外と几帳面な性格のようで、掃除や片付けも手を抜く事がない。
「マルタン、そこの洗濯物を外に干して来てくれないかい?」
「あぁ、わかった。」
私は、エヴァに言われた通り、洗濯物を手に店の外に出た。
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