049 : 後朝9
「……何も知らないくせに、勝手なことを言うんじゃないよ!
私が今までどれだけ苦労して来たことか……」
「す、すまねぇ。
……そりゃあそうだよな。
子供を抱えて、生きてくことはそう簡単なことじゃないよな。
……そういや、あんた、親はいないのか?」
「……あのろくでなしといっしょになるって言った時、あたしの母さんは酷く反対した。
あんな男と一緒になったって、苦労するばっかりだってね。
だけど、私は、そんな言葉、聞きゃしなかった。
そのまま男と家を出たんだ。
それなのに、うまくいかなかったからって、家に戻れるわけないだろう!
どの面下げて戻れるって言うんだい!」
「つまらない意地張ってどうすんだ。
良いか、親子っていうのは……あ、いや……実はな、最近あったことなんだが……」
リュックは、リンゼイ親子のことをエヴァに話して聞かせた。
いつものように大袈裟に話すことも、わざと面白く話すこともなく、ただありのままを率直に。
エヴァはそんなリュックの話に、何も言わずただじっと耳を傾ける。
「そんなことが……
そうかい…みんな、それぞれに問題を抱えてるんだね。」
「無理に会いにいけとははいわねぇよ。
だけど……親子っていうのは、きっとそういうもんだと思うんだ。
あんたがいつか気が向いたら、ディヴィッドの顔でも見せに行ったら良い。
きっと、それだけで今までのわだかまりなんて、消えてなくなっちまう。」
エヴァはリュックのその言葉に、俯いて肩を震わせる。
「……なんだよ、俺、そんなにおかしいこと言ったか?」
「だって…あんたと同じこと、ナタリーさんも言ったんだよ。
あんたの母親…いや、それ以上の年のナタリーさんと。
本当に面白い男だね。」
そう言うと、エヴァは大きな口を開けしゃがれた声で笑い始める。
「ちぇっ…年寄りくさくて悪かったな!」
拗ねた様子で、リュックは自分のグラスに酒を注ぎ入れた。
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