049 : 後朝5






「本当に一人で大丈夫なのか?」

「平気さ。
俺は、あんたよりずっと若いし元気だからな!」

そう言うと、リュックは片目を瞑ってみせた。



最近は、私とリュックが二人で酒を買い出しに行っていた。
私はともかく、建築作業のうまいリュックが抜けるのは現場としては痛手だろうが、リュックはディヴィッドに会うことを楽しみにしていたし、それはディヴィッドも同じこと。
そのことを町のみんなも理解してくれた。
しかし、昨日、私はうっかりと足場を踏み外した。
高さはたいしたものではなかったが、転び方がまずかったのか、腰を痛めてしまったのだ。



「すまないな。
ディヴィッドやエヴァに、よろしくな。」

「あぁ…」



リュックは頷き、部屋を出て行った。







「マルタンさん、腰の具合はいかがですか?」

「ええ、お蔭様でじっとしている間は特に痛みは感じません。
昨日のあの膏薬が効いたのでしょう。」

「今日もまた持って来ました。
早速、貼り替えましょうね。」

歩けない程のことはなかったのだが、クロワが心配してわざわざ出向いて来てくれた。
少し前に、私とリュックは教会を出て、簡易宿舎に移った。
ただ寝るためだけの簡単なほったて小屋だが、各自のベッドがあるだけ教会よりはまだ寝心地が良い。
私達の他に、ジャックとアーノルドが一緒にここで暮らしているが、今は二人共作業に出ている。




「診療所はお忙しかったんじゃないんですか?」

「いえ、このところはそうでもないんですよ。
院長先生も近頃はずいぶんとお元気になられましたし。」

クロワ達は、この町に着いてからずっと院長の家で暮らしている。
作業も違うために、最近では毎日は会えない状態だ。



「そうですか、それは良かった。
……先生はお元気ですか?」

「ええ、先日、週末の酒場にも行かれたそうなんですが、お客さんがいっぱいで入れなかったと戻って来られました。」

「先生が店に?
声をかけてもらえたら、一人くらいなんとでもなったのに……」

「そうなんですか。
では、そのように伝えておきますね。」

まるで、妻のような答え方だと思った。
そういえば、クロードとクロワは、私達があの山の上の屋敷を離れて以来、ずっと一緒だ。



(もしかしたら…二人の気持ちになにか進展があったのかもしれないな……)



「マルタンさん……なにか?」

「え…?いえ、なんでもありません。」

思わず微笑んでしまっていたことに気付き、私はその場を誤魔化した。


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