048 : 数珠つなぎ7
*
「へぇ…そんなことが……
でも、良かったじゃないですか。
こうして和解出来て、また一緒に住めるようになって……」
「わ、私はまだ……」
「ええ…最高に幸せです……」
かぶさった母親の言葉に、リンゼイは驚いたように母親の顔をみつめた。
「隣の大陸に渡るっていうのは聞き間違いだったらしいんですが、でも、そのおかげで、私は娘の本当の気持ちがわかった……
情け無いことに、今までは誤解してることが多くてね……」
「母さん……」
母の優しい視線を、リンゼイはどこか戸惑ったような顔で受け止めた。
「あの…良かったら、あの指輪を着けた所を見せてもらえませんか?」
「え……でも……」
「この子ったらね、まだ遠慮して着けないのよ。」
「遠慮……?」
小首を傾げるアンディに、リンゼイの母はくすりと笑い、またリンゼイの方に向き直る。
「リンゼイ、とにかくお見せしたら?」
「え……ええ……」
「ところで……」
リンゼイがその場から立ち去ると、母親がアンディにゆっくりと話を切り出した。
「なにか?」
「あなた…変わってるわね。
あの子の痣のこと……何とも感じてらっしゃらないみたい。」
「え……?
あぁ……なんとも感じてないってわけじゃないですよ。
若い娘さんだから、きっと気になさってるだろうとは思ってました。」
「そうじゃないの。
普通の人はみんな驚いたり気味悪がったり、逆に気を遣い過ぎてわざとあの子と顔を合わさないようにしたりするものなのよ。
だけど、あなたはそのどちらでもない。」
アンディは、母親の言葉に小さな微笑みを返す。
「俺は、実は孤児なんですよ。
親の記憶もまるでありません。
俺がまだ小さな頃、行商をしていたおやじに拾われて育てられました。
おやじは飲んだくれだったし、いいかげんな所もあったし、世間的には立派な人間とは言えないかもしれないけど、そんなおやじがよく言ってたのが、人は職業や見てくれや金を持ってるかどうかで決まるわけじゃないんだってことだったんです。
そんなものに惑わされずに、その人の心だけを真っ直ぐに見ろっていうのがおやじの口癖でした。
今の俺にそんなことが出来てるかどうかはわからない。
だけど…ずっとそういうことを言われてたせいか、俺は容姿に対してあまり関心がないみたいです。」
「……そうだったの。
ありがとう、アンディ。」
母親は、感極まった様子で、アンディの手をしっかりと握り締めた。
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